◇ヒアシンス

□早朝の戯れ
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「服装を正してから校舎に入って下さい。」


「持ち物検査します。」


朝、寮の出入口と校門には生徒会のメンバーが並んでいました。


「…服装。…学年組名前は?」


俺、黒川綾もその1人。


「何だよ…シャツぐらい良いじゃねぇか。」


多分3年だろう。
俺にぶつぶつ文句をたれる。


「規則ですから。」


俺は慣れているのでそんな文句は受け流す。



「うーっす……何?もめてんの?」


「瀬山っ!!」


気だるそうに校門をくぐってきたのは瀬山和貴。

生徒会もなかなか手を焼いている相手だ。


「瀬山ァ。どうにかしてくれよ、この2年。良いじゃねぇかなァシャツがちょーっと出てたぐらいよー」


「どうにかって…」


瀬山は困った顔をして手を頭の後ろに回す。


「瀬山さん、あなたも服装正して下さい。」


そんな瀬山に鋭い眼差しを向ければ、瀬山はじっと俺を見る。


「……はいはい、手厳しいなぁ?」


苦笑いしながらも直す素振りはない。


「おい、行くぞ。」

「…あ、瀬山ずっり!!」

「待て、瀬山和貴!!」


俺の横を通り過ぎようとした瀬山を俺はシャツを掴んで引き止める。


「服装を正して行けとっ…!」



「しつけーな。」


いきなり声のトーンが低くなる。



「たかだかシャツぐらいでギャーギャー喚いてんじゃねぇよ。」


だがそれにも怯まず、俺は瀬山に噛み付く。



「悪いが規則だ。正すまでこの手は離さないからな。」



「…っ…だり、やってらんねぇ。」


最初に注意していた生徒は俺を睨み付けるとどこかへ消えてしまった。



「…離さない、ねぇ」


瀬山は、ニヤリと笑って。


「じゃぁ、いつまで耐えられるか試してあげようか。」


俺を校門から少し陰になったとこに押し付けた。



「っ!」


背中に強い衝撃を受けて顔をしかめる。



「……ね?綾ちゃん?」


スル、とネクタイの結び目が緩められる。


「あ!」


「…ここ、キスマーク。さっきから見えてたよ?」


襟をすこし広げると見える首元に瀬山は指を添える。


「っ!!」



俺は一気に赤くなって、シャツを掴んでいない手で瀬山の手を払う。


「おっ、と」


その手を瀬山は掴んで俺の頭の上に押さえつける。



「離、せっ!」


必死に身を捻るが、瀬山の力には敵わない。



「そっちが離せばぁ?…そしたら俺だって止めるよ?」


「お前が服装を正すまで離す気はないっ」


生徒会役員として、風紀を乱すものは許せないのだ。


「……はっ、じゃぁどーなっても知らねぇからな。」

瀬山はそう言うと、俺のシャツのボタンを外し始めた。


「っ…おい…!」


「なぁ?…このキスマークは誰につけられたの?」


瀬山は妖しい笑みを浮かべて、俺に問う。


「なっ…!」


急な問いかけに俺はその時の情事を思い出してしまい、顔を赤くした。



『綾…気持ち良い?』

『馬鹿、…っ!ぁっ…聞くな、ンなことっ!』

『教えて、綾。』

『うっさい…!…ぅあっ』

『教えてくれなきゃ、意地悪するよ?』

『遼っ…のバカぁ…っひ、跡つけんなよぉっ…!』




「〜〜〜っ!」


「あ?なになに?思い出しちゃった?真っ赤だよ。」

瀬山は俺を冷やかす。


「ふざけっ…!」


「俺の予想的には、同室の朝野君だよね?……でも富屋っていう可能性も有りかな?」


「はぁっ?!何でそこで会長が出てくんだよっ!」


富屋昴、ここ鳳凰高校の生徒会長だ。


「あ?だって、いつもアイツ『黒川は本当可愛いなぁ』って言ってるから。」


ま、体育の時ぐらいしか知らないけどな。



「あれはっ!ただ俺で遊んでるだけで…っひ!」


俺の抗議が終わらないうちに瀬山は、俺の服のなかに手を差し入れた。



「じゃぁ、朝野君か。ボケてる様に見えるけど、意外とやるんだね?」


「てめっ…いい加減にィっ!」


スルスル、と上がってきた指先から逃げる様に腰が逃げをうつ。



「何、それ誘っている様にしか見えない。」


「うるさっ…!」



(もう嫌だっ…!遼、遼っ!!)



「り、遼ぉ……」


「え、」




ガサッ




俺が恋人の名前を口に出すと、後ろの茂みが揺れた。



「すみません、瀬山さん。」


ふわっと優しく抱き締められる。


「あ、」



「…綾、来るの遅くなった。ごめん。」



寮の出入口で検査をしていたはずの恋人が、俺を抱き締めてくれた。


「遼ぉっ…」


思わず遼の背中に手を伸ばす。



「瀬山ぁ!!!」



バコーーンッ



「あいだっ!!」

後ろから思い切り叩かれる。



「お前は何してんだダアホっ!」


「ちょっ!!弥久っ、痛いっ!痛いって!!」


田原先生が瀬山の首を締め上げているのが目の端に窺える。



「綾、大丈夫?…どこ触られたの?」


遼が優しく頭を撫でてくれるが、俺はただ首をふるしか出来なかった。



「……瀬山さん、」


遼が、瀬山に話し掛ける。


「あ?」


弥久の攻撃を交わしていた瀬山がこちらに振り向く。


「あっ」


田原先生の渾身の一撃が瀬山の後頭部にクリーンヒットした。


「痛ぇっ!」


「あぁ、すまん。」


「軽っ!」


「あの、瀬山さん…」


もう一度、遼が話し掛ける。



「……できれば今後一切綾には手を出さないでほしいんですが。」


「遼っ…」


遼にしては厳しい口調に驚く俺。



「言われなくても、出さないつもりだよ。」


瀬山もため息をつきながら答える。


「まさか泣かれるとは思わなかったし」


え?


「な、泣いてなんかっ!」

「いーや。泣いてたね」


瀬山は面白がって、更に俺をからかう。


「泣いてなっ…い」


「瀬山さん」


イラついた遼の声。
俺は一瞬首を竦める。



「はいはい。…弥久行くよ。」

「お前が言うなっ」


2人が去っていく。


朝の静寂が俺達を包む。



「綾、」


ギュッと遼が俺を後ろから抱き締める。


「りょう?」

「本当に瀬山さんに、何もされてない?」


心配そうに聞いてくれる遼がたまらなく愛しい。



「ん、大丈夫。」

「本当?」

「本当。」


「消毒する?」


「しなくていいっ!」









そのあと、朝のチャイムギリギリまで綾は遼に身体中を消毒されたとか。
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