◇ヒアシンス

□旅立ち
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『え!卒業!?』


それはどんなに拒絶しようとも受け入れなければならない、時の流れの催しもの。


ここ鳳凰学園も例外ではなく、急遽主要メンバー3年組が集められました。



「いやいや、ダメだろ。」

「全くだ、卒業なんて」


私の質問に答えたのは瀬山と中澤。2人ともとても嫌そうです。


「そうですか。ではどういたしましょうか。」


人の気持ちに対して興味無い私はただ淡々と質問を投げ掛けます。

はっきり言ってこんな事はやく終わらせて家に帰りたいものです。


「…ていうか、君ダレ?何で誰もつっこまないの?」


会長さんが私を指さして、皆を見渡しました。


そうですね、自己紹介を忘れていました。



「あ、なんだよ誰か知らなかったのかよ。てっきり俺ぁこの学校の誰かかと…」

「ここは男子高だよ、瀬山。こんな綺麗な女性が教師になんて来るハズもないよ。」


「そうだなぁ。綺麗な女性、しかも大人!クール!皆たかっちまうよな。」


「そんな目で私を見てたんですか。セクハラで訴えますよ、中澤さん。」


「え!!俺だけっ!?」


慌てて釈明しようとする中澤を尻目に私はスッとその場に立ち上がりました。



「私、作者の使いっぱしり………失礼、秘書兼雑務の成美と申します。」



『………はい?』



その場にいた皆さん全員がきょとんとした顔になった。



「……成美さん、取り敢えず貴方は何しに来たんですか?」


あぁ一番の常識人らしき五十木さんまで、理解不能という顔をしております。



「私は作者の意向により皆様に卒業するのかしないのか聞いてこいと頼まれました。あとしないのならば理由を作ってこいと。」



「作者……、え?ダレ?」

よくぞ聞いてくれました。
あぁ、ウザイ…失礼。主人の声が聞こえてきそうです。



「この世界の創始者です」

「中2かっ!!!」



皆様声を揃えてツッコミます。中2というのは人生で一番バカで恥ずべき暗黒時代と主人がいつか言っていました。きっと身に覚えがあるのでしょう。



「いや中2だ。発想が中2だ。馬鹿だろ。」


瀬山さんもっと言ってやって下さい。


「はぁ、…中2の言うことなんか聞いてられませんよ。………さて、戻りましょうか」


あ、会長さんの一言で皆さんソファーから立ち上がってしまいました。困ります。



「では皆さん!きちんと答えていただかないと、私成美は帰れないので皆さんと寝泊まりしなくてはなりません!」



「「え。」」


寮生組は止まってくれました。瀬山さんは「俺関係無いし〜」とスタスタ歩いて行ってしまいます。困ります。



「そしてこのままならば作者は自由に世界を変えて皆さんの大切なものも全て奪ってしまうぞ、と言っています!」



「「「……!」」」



大切なもの、という単語で皆さんぱっと振り向かれました。



「いやいやいやいや、お前何言って……」


瀬山さんは鼻で笑いながらも戻って来ます。


「康人はっ!?康人がどうにかなるのかっ」


「さわらないで、変態」


「俺の扱い酷くねっ?俺女性にこんな扱いされたの初めて!」


「何気自慢だろそれ。」


私は中澤に肩を揺さぶられたのでそれを取り払いました。ナイスツッコミです五十木さん。



「ふーん…でもまぁ、言ってる事はやっぱり中2ですよね。信憑性は薄い気がするなぁ。」



会長さんはなおも食い下がります。頑張れ会長さん!



「でも成美は皆さんの意見を持って帰らないと。」



そしてはやく終わらせて寝たいです。



「ふーん。……でもなぁ」

「…ちょっと理解できないよなぁ…」



「……困りました。」



万事休す、手の打ちようがありません。



【成美!私に任せなさい】


「……え?」



突然主人の声が聞こえました。何だかめんどくさい事になりそうです。



【あんたたち、いい加減にしないと、こうするよっ!】



ぽぽぽーん、いえ間違えました。突然ぽんっと音がして人が1人落ちてきました。



「いってぇ〜〜…」


落ちてきたのは康人くんです。サラサラの髪の毛が少し乱れています。



「や、康人っ!無事かっ……?」


そう言って中澤は康人くんを抱き起こそうとしました。しかし



「っ、触んなよ!この変態っ!!」


「「!!?」」


いつもの素直な康人くんはどこへやら。中澤と五十木さんは固まってしまいました。


「やややや、康人おおおお?」


半分泣きながら、中澤は康人くんの肩を揺らしますが、また跳ね返されます。



「うっさいな!黙れよ!」


これはツンデレではありません。本気で中澤を嫌っているみたいです。



「…ううぅ、俺の可愛い康人…康人…」



中澤が少し可哀想に見えてきました。少しです、少し。



「………怖いな、おい」



「あぁ、逆らえないな」



【じゃぁ次はこうねっ!】



またぽんっと音がして鈍い音が響きました。


「…っ〜たぁ」

「〜〜っ」


今度は数人いるみたいです。



「うげっ……!」



瀬山さんが嫌そうな顔をしました。出てきたのは田原先生と正木先生と………



「雄大っ!!」


「康人っ!」


村西くんみたいです。



村西くんを見つけた康人くんは心底嬉しそうな顔をして村西くんに寄っていきます。



「雄大、大丈夫?ケガないか?」


「うん、大丈夫。康人ありがとう」



さっきまでの康人くんとは大違い、可愛くも格好良い康人くんは村西くんに笑いかけています。



「良かった…、ケガなくて…立てるか?」


「うわっ、康人……っダメ、…恥ずかしいっ」


「…ばっか、何恥ずかしがってんだよ。…可愛いな」


「うわぁぁぁぁぁあん、康人ぉぉぉぉお!!!」



中澤うるさい。今良いとこです。



「百合だな。」


「百合コンビだな、見目麗しい。」



五十木さんも会長さんも達観しています。大人です。



「……みーくちゃーん」


おっとこっちを忘れていました。教師組2人は未だに状況が掴めていないご様子。

瀬山さんは、恐る恐るといった様に田原先生に近付く。


「……あ〜?あ、何だよ和貴ぃ〜、お前から来るなんて珍しいなー」


「へ、え、あ、うぉっ?!」


田原先生は端整な顔をニヤァと歪めて瀬山さんの腕を掴み自分の下に組敷いてしまいました。



「和貴ぃ、何だよ?もう我慢できなくなったのかぁ?昨日もアレだけ苛めてやったのに。淫乱だなあ…」

「いやいやいやいや!何のお話でしょうかっ?!身に覚えがございませんがーっ!」


「あぁ?誰に口答えしてんだてめぇ……仕置きされてぇのか、え?」



「みみみみ、弥久ちゃんがっ…!おかしくなっちゃったぞおぃぃぃい」



田原先生をどかそうと瀬山さんは頑張りますが、なかなか動きません。



「おいおい何だよ、楽しそうじゃん。」



「あぁ、てめぇっ正木!ちょっと助けろや!」


寄ってきたのは正木先生です。くわえタバコがトレードマークです。



「あんだよ、田原ァ…」



「俺も混ぜて3Pでどうだ?」




「もうやめろぉぉぉぉお!!!お前ら目ぇさませぇぇえ!!!」





瀬山さんの貴重な表情が拝めました。リバとは主人の性格の悪さがうかがえます。




「もう、信じて良いんじゃないかな。」



五十木さんがボソリと呟きました。
あぁ、本当ですか。嬉しいです。


「そうだね、ここまできたらねぇ。」


会長さんも苦笑いです。



「五十木!富屋!!もうこいつの言うこと聞こうぜ!」


瀬山さんの切羽詰まった声が聞こえます。中澤もコクコク頷いています。



【さぁて、次は……】



もう良いです、出てこないで下さい。

私はペシンッと主人を引っ込めて、皆さんを見回しました。



「卒業はしますか?」

「しません!!」


「何故ですか。」



「卒業拒否ですっ!!」



それで良いのでしょうか。でも私はこれを主人に報告するだけです。



「わかりました。皆さんお疲れさまでした。」



さて、私は帰ってはやくねます。皆さんありがとうございました。










「…あ、れ?……智?」


「うわんっ、康人ぉぉぉお!!」




「は?!せ、瀬山っ……」

「はーい、弥久ちゃん?今日は寝かさないよー?」




皆さん大変そうですね。






鳳凰学園は今年も変わらず元気に活動するみたいです。どうぞよろしくお願いします………――。

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