◇ヒアシンス

□春の思い出
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『――…新入生起立。』


入学式が始まった。
鳳凰高校は一学年10クラスに分かれ、1組から成績順に否応なしに振り分けられる。


勿論、黒川は1組。流石にそうでなければ母は入学させてくれなかっただろう。

『―…新入生歓迎挨拶。新入生起立。』


『生徒会、会長―…紀南秀斗』


長身で端整な顔立ちをした男が壇上に上がっていった。


『―…暖かな、春の日射しが降り注ぎ、穏やかな春の訪れを感じさせる季節となりました。』


透き通るような声が、体育館全体に響き渡る。
聞き慣れた言葉の羅列も、思わず聞き入ってしまう。

だが同時に入学式の手伝いをしていた上級生達がにわかに騒ぎ出した。


「会長、まじやべえよ。超かっけ〜!」

「だよな〜!」

「つーか綺麗?美人?」

「バッカ、会長男だっつの!」

「いやでもやばいよな〜。同性でも惚れそう。てか掘ってくれ、的な?」

「ギャハハ!掘られんのかよお前〜?」

「え?会長を掘るのか?そりゃ無理だろー」

「確かになあ〜!でも掘られんのもやだな、俺。」

「でも俺あの端整な顔を歪ませて、啼かせて、悦がらせたいけど?」

「よっ、このドS!」

「まぁ泣かせたいのは共感できるかなあ。」



思った以上に低俗な所の様だ。だいだい“掘る”って何なんだ。人は掘れないぞ?そんな事を考えていると、話は進んでしまっていた。既に終わりかけだ。



『…―以上で歓迎の言葉とさせていただきますが、皆さんに一つお知らせがあります。』


(何だ?)


周りも少しざわつく。



「さぁて、今年のエリートちゃんは誰かなあ?」


(エリート…?)


先程の上級生達が、ニヤニヤしながら新入生達を見る。


『毎年入学試験の上位二名は、ここ鳳凰高校の生徒会に入る事になっています。今からその二名を発表します。』



(生徒会…?だからエリート?)



『1組、朝野遼。同じく1組、黒川綾。』


!!


「「はい。」」


全く同じタイミングで返事をして、その場に立った。

「……、」


立ち上がったのは丁度斜め前、髪の毛はくせっ毛で色はブラウン。

地毛なのだろうか。ふわふわしてて思わず手を伸ばしたくなる。


すると、その朝野という男は少しこっちを見て、ふわっと笑った。男子高生とは思えない様な雰囲気を纏った男だ。



挨拶程度に微笑み返すと、朝野は少し目を見開いたがすぐにまた笑いかけてくれた。


(…何か俺、やっちゃったか?)


『2人はこの後残るように。それでは着席して下さい。』


(俺上手くやってけるのかなぁ…)





その後式は滞りなく進み、閉会を迎えた。








『それでは10組から順に退場して下さい。』


教師のアナウンスが入ると10組の生徒達がダルそうに立ち上がり、体育館から出ていく。


10組の生徒達は、髪が染まってたり服装が乱れていたり、ピアスやらアクセサリーやら…正直近寄りたくない。



「……黒川、くん?」

誰かから囁くように名前を呼ばれた。


「?…あ、はい。」


振り向くと、先程の朝野がにっこり笑ってこちらを見ていた。


「生徒会、頑張ろうね。」


案外子供っぽいしゃべり方をする。ちょっとした母性本能をくすぐられるような、…さぞ女にモテるだろう。


「大変だよね…きっと。」

「しょうがない、一年我慢すれば多分、大丈夫。」


そうやって笑いあったところに


「黒川君、朝野君。」


先程の生徒会長が、俺達のとこに走り寄って来た。


「…はじめまして、生徒会長の紀南秀斗です。」




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