◇ヒアシンス

□春の思い出
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改めてみると、本当に綺麗な人だった。
男にしては長い髪の毛を後ろで一つにまとめて、目を細めてそっと笑う。


「…美人さん……」


俺の周りのクラスメイト達も若干騒ぎ始める。


「えっと、朝野君が……」

「あ、俺…です。」


さっきの男が小さく手を挙げた。
よくよく見るととても眠たそうだ。何だろう、ぼんやりしているというか。


「じゃぁ、黒川君?」

「はい。」


今度は会長がこちらを向いた。




「良かった…真面目そうな子達で」




ふいっと自然な動作でネクタイを緩めながら、苦笑する。何か心配事でもあったのだろうか。



「……今日は夢見が悪くてね…」




「会長ー、新入生見つかりましたか?」


「紀南先輩、お待たせしました。」




そこに2人の生徒が駆けてくる。



1人は眼鏡をかけていて、なんだか真面目そうな人。

もう1人は飄々としていて自由人っぽい。



「あー、きたきた。…五十木ー富屋ー!はやく来いよ!」



「すまっせーん」





人混みをかき分けて合流してきた2人は揃って美形だった。


…レベル違いすぎないか、俺。



「会長〜、どうしたんですか?浮かない顔して」


「新一年生の生徒会メンバーが2人とも富屋っつう悪夢を見たんだよ!」


「うーわ、それはそれは…」


「何それめっちゃ光栄。夢は願望の表れって言いますよね〜?」


「だから悪夢なんだよっ」








「あーやっ!」


突然後ろからの衝撃と共に聞き慣れた声が聞こえた。



「姉さんっ!何でっ…?」



「綾が生徒会って言うから来ちゃった〜」


ツインテールを揺らしながら優しく笑う



「こら希!抜け駆けしてんじゃねぇっ!」



あぁ来た。兄さんまで



「うっさいわねぇ、樹!私の綾に触らないでくれる?」


「誰の綾だって?誰の?ぶぁっかじゃねぇの、俺のに決まってんだろ」



小学生か!低レベルすぎて怒る気にもならない。



「何?御兄弟?」



富屋、と呼ばれた人がひょこっと俺の横に並ぶ。



「あ、はい!私黒川綾の姉の希と申します。」


「同じく兄の樹と申します。」


2人は深々と礼をする。
母は礼儀作法に厳しい人だから、3人揃って厳しく躾られたものだ。




「そうなんですか…ところで、お嬢様?」



さっきまで怒鳴っていた会長がスッと一歩前に進み出て希の右手をとった。



「こんな可愛らしい方が男子高などに足を踏み入れるなど、無謀にもほどがございます。どうか校内では、お一人にならない様、お気をつけ下さいませ。」



会長はキザにも姉さんの右手甲に軽くキスをして微笑んだ。




「……あら、素敵な助言をどうもありがとう」




そんな会長にも動じず、ふふと笑って受け流す姉。



「でも大丈夫よ、これでも私23歳なの」


「年齢は関係ありませんよ、綺麗な女性にここの生徒は飢えています。」







「…………うーわ、悪面」


「…………姉ちゃん、どうしたのかな」




ほぼ同時に富屋さんと俺はボソッと呟いた。




「……ごめんね、会長手がはやくて」



「大丈夫です、姉はあぁ見えて結構強いんで」



「…強い弱いじゃない気がするけど………」




『1組、退場の準備に移って下さい。』



教師のアナウンスが入った。




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