retaliation
□retaliation
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「…間に合うかなぁ…あんまり遅いと嫌なんだよなぁ…」
パタパタ走りながら通学路を急ぐ。
家から学校までは歩いていける距離で案外近い。
だからこそ遅刻しそうな時にバスが使えないのが不便で仕方ない。
「チャリ出すかなぁ…でもめんどくさいなぁ…」
マンションみたいな集合住宅の自転車置き場は混雑していてしかもぐちゃぐちゃで出しづらい。
「…やっぱ走ってくしかねーじゃん!」
俺はカバンを抱え直して、校舎を見ながら足をはやめた。
「〜〜〜!っはぁ、」
やっと正門の前まで来て、足を止めて深呼吸。
無駄にでかい校舎を上目で睨みながら息を整えた。
いつもの光景になった厳しい生徒会の服装チェックの横を通ろうと、正門をくぐろうとした時、凛とした声で呼び止められた。
「結橋岬、遅刻ギリギリだぞ、気を付けろ。」
「……黒、川…?」
たしかこいつはクラスメイトの黒川綾。
男にしては綺麗目な顔立ちが眼鏡と眉間のシワによって半減している。
…いや、眼鏡は逆にプラスか?
とにかく真面目、そして融通がきかない。
「…ったく、」
僕にもう一言二言文句を言おうとした時に、ほんわかした声が遠くから聞こえた。
「あ、綾ー!終わったぁ?」
「…遼?今から遅刻者指導だ馬鹿!寧ろ今からだ」
今のは朝野遼。
ほんわかしていて、何かを考えてるようには全く見えないが、頭は良い。
黒川綾とよく一緒にいて、よくイライラする黒川を宥めているみたい。
まぁ僕らの学年でぶっちぎりのワンツー。性格こそ違えど良い相性の二人らしい。
「仕方ない、早く教室行け結橋。40分のチャイムで入室できなきゃ遅刻にするぞ。」
「あ、…はぁ」
僕は歯切れの悪い言葉を残してその場を去った。
「…うぇ、」
他人と喋るのは緊張する。
何を喋ったら良いのか、話題はあってるのか、気分を害したりしてないか、嫌われてないか、…とにかく何を言って良いのかよくわからない。考えるのも疲れた。
そう思ったら、しゃべれなくなった。
小さい時からこれだけは直らない。京さんの前だけ、素直になれる。
「…全部、あれから」
小さい頃のトラウマ。
全てはそこに行きつく。
多分一生直らない。
もう、諦めた。
京さんにだけ、僕は喋れる。
今はそれで良い。
京さんがいてくれるうちは、きっと大丈夫だから。
「……」
ガラッと後ろの扉から入って窓際の自分の席に座る。
勿論挨拶なんてしないし、されもしない。
クラスメイトとの会話なんて数えれる程だ。
「……」
黙って座るが、チラチラ向けられる視線がどんどん僕の中を不安にする。
(僕どこか変なのか…?)
そっと自分の身なりを確認するがよくわからない。
「…ぅ、」
どうしよう、わからない
不安だけが僕を支配しはじめる。
実は笑い者にされてるとか?僕の悪口が出回ってるとか?何か僕がしちゃったとか?
ありもしない様な底無しの不安がうずめく。
一気にネガティブ思考に突入だ。
急にこのクラスが怖くなってそっと周りを窺ってみた。
「…」
「…」
当然の様に、やはり誰も相手にはしてくれない。それどころか目も合わせてくれない。
「…っ」
バッと目線を膝に移した。
怖い、会話をすることが
羨ましい、友人がいることが
矛盾した思考が僕を縛り付ける。
はやく、はやく朝のHRを…!
思った矢先、僕の携帯がポケットで震えた。
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