連載番外
□どっちも一番。
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その騒動を、耳元から伝わる音だけで想像して、また志緒は笑ってしまった。
扉一枚を隔てた先に気配を感じて、携帯を耳から離す。
一度ドン!と何かぶつかった様な音がしてから、せわしなくガチャガチャと鍵を開ける音がして、
流川が扉の向こうから現れた。
携帯を切って、志緒は改めて流川に目をやる。
流川は扉を開いた体制のまま、足先だけ靴を引っ掛けて外へ出て来た。
「…ハッ」
大した距離でもないのに、余程慌てたのか、流川は鋭い息を吐いた。
そんな流川に笑いながら、志緒はわざわざやって来た目的を果たす。
「楓、誕生日おめでとー。」
「…」
電波を通して聞こえるのではなく、直接耳に届いたクリアな声に、流川は目をパチクリとさせた。
そうだ。
さっき思い出したけど、今日は自分の誕生日だった。
と、改めて理解する。
「アンタ…そんな事言う為に来たのか…?」
折角祝って貰ったというのに、流川の返事はこんなものだった。
それには、毎日の様に喧嘩する花道じゃなくても、ムッと来ない筈がない。
「わざわざパーティ抜け出してまで来てやったのに…アンタは素直に喜べないの?」
「…パーティ?」
年越しのカウントダウンパーティでもしていたのだろうか…
と流川は考えた。
しかしソレを抜け出してまで、自分の誕生日を祝いに来てくれたのだ。と、そこで流川はやっと嬉しいと感じられた。
「…あ、りがとー。」
なんと答えればいいのか判らなくてどもってしまったが、
その言葉を志緒は素直に受け止めた。
「どー致しまして。それと、あけましておめでとー。」
「…あけましておめでとー。」
「もしかしなくても、アタシがどっちも一番?」
どっちも、とは、
誕生日と新年の挨拶の事だろう。
流川はコクリと頷いて見せた。
「ま、一番に言いたくて来たんだけどね?」
そう言って笑った志緒に、流川はさらに嬉しくなった。
同時に胸も高鳴ったが、それに流川は気付かない。
その時、志緒の手の中の携帯がブブブと震えた。