連載番外
□どっちも一番。
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「あ。」
振動する携帯を開いて、志緒は一言そう漏らした。
どうかしたのかと問う前に、志緒は流川の目の前で、携帯を耳に当てる。
「も…」
『志緒ーーーッツ!!!テメーいつまでたっても帰らねーでどこ行ってやがんだッツ!もう年越しちまったじゃねーか!!!』
志緒が、煩くて耳から離したその携帯から、流川の元まで聞こえたその声は、
紛れもなく、花道の声。
どあほうとパーティしてたのか。
と流川は思った。
「ハイハイ。もう帰るから」
『どこ行ってんのか知らねーけど走って来い!』
「えー。」
『テメーの誕生日パーティなのにテメーがいねーでどーすんだよッツ!』
二人の会話が筒抜けだった流川は、天敵のその言葉に疑問を持った。
『さっさと帰って来ねーとケーキ食っちまうからなッツ!』
「半殺しになりたいなら食べれば?じゃーね…。」
通話を終了した志緒に、流川はやっと口を開けた。
「アンタ、誕生日?」
「…毎年花道達と、年越し兼誕生日パーティすんの。」
「…なんで言わねー。」
「言ったらプレゼントでもくれた?」
「…」
例え志緒の誕生日を知っていても、プレゼントなど流川は用意しなかっただろう。
だけど。
「…なんで、楓に一番に言いたかったかわかる?」
「…?」
「同じ誕生日の奴がいて、嬉しかったんだよね、アタシ。」
そう。
同じ誕生日である事がすごく嬉しかった。
だからこそ、自分には言って欲しかった。
今となってはもう、いい事だけど。
「…オメデトー。」
「ありがと。…これでアタシの一番、どっちも楓が言っちゃったね?」
「…おあいこ。」
その言葉に、志緒は少し驚いた。
おあいこ…とはつまり、流川も嬉しかったと言いたいのだと理解出来たから。
「じゃ、アタシ帰るわ」
嬉しさを隠し切れぬまま志緒は言った。
それに流川も頷いた。
「今年もよろしく」
「コチラコソ。」
「じゃ…よい誕生日を、ね。」
「…アンタも。」
少し名残おしかったけど、志緒は花道に言われた通り、家に向かって駆け出した。
程なくして苦しくなる呼吸に、
喫煙者である為か、長くは走れないだろうと判ってはいたけれど。
それでも気分はよかった。
流川は段々小さくなる背中を、ずっと見ていた。
部屋着のまま出て来た外は、凍える様に寒かったけど。
それでも気分はよかった。
年を跨いで、新年の挨拶をして、誕生日を祝った。
たった数分の間の事に、二人はやけに満足していた。
それぞれ、白い息を吐き出しながら、
来年もこうだったらいい。
そう考えていた。
END