連載番外

□アの日
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なんでもない普通のある日いつも通りに始まった、いつもと同じ放課後の………悪雲たちこめる、部活。



【アの日】




ゴロゴロと、雷落下を目前とした真っ黒な雲みたいな。ビリビリと、触れたら痺れる電気みたいな。
呼吸する事さえ困難な重たい空気と張り詰めたこの緊張感を、適格に表す言葉が見つからないなと部員達は思った。

なんだか判らない、とにかくもう嫌だし怖いしこの場に居たくなくなるような。そんな空気をガンガンに惜しみ無く放出してるのは、間違なく志緒で。
部員達に判るのは、とりあえずもうどうしようもないぐらい彼女の機嫌が極悪だって事だけだった。


「一体何事だっていうのよ…」

「おい流川、お前同じクラスだろ?志緒の奴、今日ずっとあんな感じなのかよ?」

「…っす。けど、ほとんど教室いねかった。なんか7組に入り浸ってた」

「7組…って花道のクラスだよなぁ?そいや、花道は?」

「桜木は担任に呼び出されてるらしいよ?」

「あのバカもんがまた何か…」

「もう!どうしてこーゆー時に居ないのよ桜木花道はっ!」


体育館の隅っこ…志緒から一番距離がある場所で、部員達と彩子は縮こまるようにしてコソコソ話し合いをする。
なんだか知らないが物凄くご機嫌ナナメな志緒が怖くて、部活に身が入らないのだ。

だからと言って志緒のご機嫌取りに行く勇気はないし。まず近付く事がすでに怖い。
あんな、あんなな志緒は今まで見た事がなくて。部員達は言うなれば今、未知との遭遇状態だ。

知らないモノは、怖い。
話し掛けて返ってくる反応がどんなものか判らなくて怖い。機嫌をさらに損なわせて嫌われるのが怖い。
色んな意味でとにかく怖い。


「…とにかく桜木が居ないんだ。誰かあのバカをなんとかしてこい。」

「じゃあお前が行けよ赤木」

「……宮城」

「げっ!なんで俺なんすかぁダンナァ!!!」

「つべこべ言わずに逝ってこい」

「今シャレんなんない漢字変換したでしょ!」


権力には逆らえず強制的に使者宮城、死への旅路につく。その距離約30歩。
だんだん重苦しくなる空気と圧力に耐えながらなんとか足を踏み出して。
辿り着いたのはある意味がけっぷち。おどろおどろしい空気とピシピシ緊迫感。全身にじっとり汗をかきながら残り微かな全精神力でもって宮城は声を発した。


「ね…ねぇ、志緒ちゃ」
「あ゛?」


宮城逃走。
命かながら帰還した宮城は部員達のどうした何があったとの声に答えず真っ青に青褪めて涙を零し続けた。


「…三井」


宮城の尋常じゃない様子に怯える部員達に死刑宣告。次なる使者三井。
三井でもなんとかならなかったら次は俺がいや俺かと、処刑台へ上る順番待ちをする気分に陥る部員達を背に、三井は旅立ち、


「も…、もう楽にならせてくれ…」


それだけ声にならない声で懇願する様に呟き、過呼吸症候群に陥った三井は帰還直後に倒れた。
怯える部員達に顔をしかめつつ次なる使者を宣告しようとする閻魔赤木を、三井に紙袋をあてがいながら彩子が制した。


「…志緒…?」

「…」

「な、何かあったの?あたしで良かったら話し」
「別に」

「え…」
「何もないから」

「………」




結局こうして出来る限りの距離をとって、彼等は救世主が現れるのを待つしかなかった。

 
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