連載番外

□どっちも一番。
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夜中に、
しかも確か、今日は大晦日。
そんな時に一人で出かける事はないだろう。

そう流川は考えた。





『んー…教えてあげなくもないけど?』

「…」




なんとなくムカついた。
教えてもいいならさっさと言えばいいのに。

どこへ行くのかは気になるが、もう一度「どこへ」などと言う気がなくなって、流川は黙った。






『…楓、今何分?』

「…58。」

『後2分か。』

「…なにが。」

『今年はいっぱいアンタの世話してやったっけ。』




あぁなる程。
今年が終わるまで後2分か。

いやそれより…





「別に世話された覚えねー。」

『覚えてないなら思いだしなさい。』

「…」




志緒の耳にあてがわれた携帯からは、何も聞こえなくなった。

多分楓は今、記憶を辿ってるんだろう。


そう考えると勝手に笑みが零れた。









『楓ー。』

「…ナニ。」

『今年はアンタに出会えて楽しかったよ。あんがと。』

「…ぉ…。」





俺も。
とは言えなかった。

志緒の言うのは、多分自分だけじゃなく。バスケ部に出会えて、という意味だと、流川は思ったから。


それに、ただ年を越すからだと判っていても、
どこか、お別れの挨拶の様にも思えたから…

流川は返事をしなかった。
したくなかった。









『楓、今何分?』

「…1分。」




どうやら考えている間に新年を迎えたらしい。

そーいえば今日は…
と思い出した時。






『…さっきどっか行くのか?って聞いたアレ、教えてあげんよ。』





突然、さっきの話を自ら蒸し返す。

なんなんだ、
と思った矢先、ピンポーンと軽快な音で、流川家のチャイムが鳴った。




こんな時間に客?
いやそれより…





受話器の向こうでもチャイムの音が聞こえたのは気のせいか…?







『…寒いんだけど。早く出てくんない?』

「っ…」





気のせいではなかったらしい。
何故かはわからないが、志緒は流川の家の前にいる。





2階にある自分の部屋から、勢いよく飛び出して階段を駆け降りる。


玄関先に出ていた母親が、寝ていた筈の息子が起きてきて、しかも物凄い勢いで駆けてくる光景に驚いていた。

目を見開いて固まった母親を、目線だけで「俺の客だ」と下がらせて、
流川は勢いのままに扉に駆け寄った。


そのままドアノブを回して押したが、まさか鍵がかかっているとは思いもしなかった流川は、ドン!と肩から突っ込んでしまった。



 
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