text

□誠意が精一杯
1ページ/5ページ







寝袋に入ったとたん、全身の力が抜けて体がずぶずぶと下へ沈み込む感覚を覚えるほどに俺は、俺達雷門イレブンは疲れていた。


突っ立っている時間よりも走ってる時間のほうが長いと言えるほど今日の練習はマジでハードだった。


だから疲労がどん詰まりの体が一度寝袋に入ったら最後、まるで巨大な渦巻きの様な睡魔が俺を引きずりこむのも当然の結果なんだろう。


あぁ眠る瞬間っていうのは何でこう、幸せなんだろうな・・


「・・くん・・・染岡くん!」


もう少しで完全に落ちるというところで誰かが囁きながら俺の肩を揺すった。
俺を君付けで呼ぶヤツ・・・吹雪か。


「なんだよ。トイレの場所でも分かんねぇのか?」


あまりに眠すぎて目が開けられない。仕方なく俺は目をつぶったまま顔を吹雪の方に向ける。


「トイレは大丈夫だよ。あの、悪いけど湿布張るの手伝ってもらえるかなぁ?」

湿布、と聞いてまず思い付くのが筋肉痛だ。でも筋肉痛だと太股あたりだし張るなら一人でも出来るだろ・・?


「ちょっと腰を痛めちゃった・・僕一人じゃうまく貼れないんだ。お願い、代わりに貼ってよぉ」


「おまっ・・腰かよ。大丈夫なのか?痛いなら悪くなる前にちゃんと診てもらった方がいいぜ」

俺が言うのもナンだけどな

とにかく月に要と書いて腰と読むくらい腰の不調は体が資本のスポーツ選手には致命傷だ。
もしも、ヘルニアにでもなったら戦線離脱も余儀なくされるだろう。


「ふふ、心配してくれてありがとう。でもきっと休めば治るよ、今日は沢山エターナルブリザード打っちゃったから腰に負担がかかったんだと思う。」


バスの窓からは鈴虫や蟋蟀の音色が聞こえている。小さな吹雪の囁きはコロコロ、リーンリーンという音と混ざって、耳に甘い余韻を残す。


吹雪が湿布を差し出す頃には段々と目が冴えてきてバスの景色が見えるようになった。
どうやら俺達以外は皆眠ってしまったようだった。
ついでを言うなら俺もさっきまで寝ていた。



鬼道に頼めば的確な処置を教えたはずだ。
円堂ならいたわりの言葉をかけたはずだ。


それに引き換え俺は・・・なにもそういったメリットは期待できない。




コイツが眠っている仲間たちの中でこの俺を選んだこと。
それがいい意味でむずかゆく、ほのかに何か、その向こう側にある吹雪の意図を期待してしまった。









次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ