Hit夢

□チョビヒゲ
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その出来事は、私のささいな一言から起こった。



「虚宿ってさあ、ヒゲ、似合いそうだよね」

「はぁ?!何言ってんだお前」



虚宿の顔をまじまじ見ると、虚宿は顔を赤くしてそっぽを向いた。



「遊郭に女宿を売りに行ったときの変装なんて、すごいよく似合ってたもの」

「あれは虚宿にぴったりの役だったな!」



私の言葉に女宿も同意する。



「う、嬉しくねーっての!!」



虚宿が怒ったように言った。


そんな虚宿を見て、私はいたずらがしたくなってきた。



「ねぇ虚宿、ちょっと顔貸してくれない?」

「なんだその喧嘩を売るような台詞は…嫌だよ」

「えー……なんでもするから!」



私のこの一言で、虚宿は固まった。



「な、なんでも?!」

「おい虚宿。いやらしいこと考えるな」

「かっ考えてねーよ!」


虚宿が慌てたように言う。



「な、何でもって言ったな?……それなら別に貸してやってもいいぞ、顔。」

「ほんと?!」



私は虚宿が許してくれたことに嬉しくて舞い上がる。



「女宿!そこの筆、取ってくれない?」

「これか?…ほらよ」



女宿から筆を受け取ると、私は虚宿の鼻の下に線をたくさん描いた。



「くすぐってーなあ…何して…」

「できたよ!!チョビヒゲ〜」

「墨付いてたのかよっ!!」



虚宿は慌てて鼻の下を擦った。



「あんまり似合わなかったなぁ」

「お前、描いといて言うなよな…」



虚宿は呆れたように言うと、私の顔を覗き込んだ。



「約束」

「え?」

「何でもするって言ったろ?」

「あ、うん…」

「じゃ、俺の部屋に行こうぜ!」



虚宿は私の腕を引っ張って部屋に向かった。



女宿はやれやれ、といった顔でふたりの後ろ姿を見ていた。



二人がどうなったのかは、二人しか知らない。


 

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