頂物

□大空が消える時
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マフィア界の誰もが恐れる復讐者の牢獄。
そこで暮らすようになって随分経つツナは、自分に面会に来たという人物を驚くことなく応接室で出迎えた。

「・・・・・・・久しぶりだね。綱吉君。随分と綺麗になった。奈々さんの若い頃を見ているようだよ。」
「お久しぶりです。9代目。で、用件はなんですか?」

9代目の社交辞令をアッサリ受け流し、ツナは早速本題を切り出した。
といっても、9代目が自分に面会に来た目的なんてもう知っているのだけれど。

「綱吉君。我々の所へ戻ってくる気はないかね?年頃の女の子が、復讐者の牢獄にいるというのもどうかと思うのだが…。」
「いいえ。俺にとってここは天国です。復讐者達は、俺を沢田綱吉という1人の人間として見てくれ、俺自身を必要としてくれています。ボンゴレの血統などという肩書きなどではなくて。」
「っつ〜。」

ツナからの痛烈な言葉を受けて、9代目は気まずそうな顔をした。

「熊沢さん。亡くなられたようですね。重い病を患って。」
「知っていたのかね?」
「復讐者は、マフィア界の番人。番人はマフィア界の事情に精通してないと出来ませんので。」
「そうか。それなら話は早い。綱吉君。キミが我々の事を良く思っていないのは知っている。だが、それでもボンゴレへ戻ってきてはくれないかね?もうあの頃のような事は絶対にしない。今度こそ、キミを本当のボンゴレ10代目にして我々が全力で守ろう。」
「・・・・・今ボンゴレでは、ザンザスの縁談が進んでいるようですね?」

ふいにツナが、全然脈絡のない事を言い始めた。
だがそれを聞いた途端、9代目がギョッとした顔をする。

「ボンゴレが誇る独立暗殺部隊のボスであるザンザス。彼ほどの人間の妻になるのであれば、もうとっくの昔にお披露目されていなくてはいけないのに、一向にその気配はない。一体、どんな人が彼の妻になるんでしょうね?」
「つ、綱吉君・・・。(汗)」

ツナの言葉の裏にあるのがスかを察した9代目は、更に気まずそうに口を噤んだ。

「相変わらず、あなたもボンゴレも変わっていませんね。」

そんな9代目を無表情に見やるツナ。

「あの頃と全く同じ。あなた方は、俺を利用価値のある道具としてしか見ないんですね。同じボンゴレ10代目でも、熊沢さんはみんなに祝福されて認められた。でも俺は、俺の意思すら無視される10代目とは名ばかりの人形。9代目。あなたは俺をボンゴレ10代目の肩書きだけつけてザンザスと結婚させた後、後は俺をお飾りの人形にして実質的な実権はザンザスに握らせるつもりだったんでしょう?」
「・・・・・・・・・・。」

ツナにズバリと言い当てられて、俯く9代目。
一体どうして分かったのだと言いたそうな9代目に、ツナは少し悲しそうな目をして言った。

「あなたが俺を道具として見ていなければ、すぐにでも分かる事ですが・・・。ねぇ、9代目。俺はあなたと同じボンゴレの血縁者なんですよ?」
「っつ!超直感かね!」

ようやく分かったと言わんばかりの9代目に、ツナはそっと溜息をついた。
あぁ、自分の前にいる9代目といい、ボンゴレといい、本当に何も変わっていない。
ドアの向こうから感じられる覚えのある懐かしい気配。
けれどツナはもう、何の感慨も抱かないようになっていた。
復讐者の牢獄に身を寄せていて、つくづく正解だったと思う。
でなければ今頃自分は無理矢理ボンゴレに連れ戻されて、意思なき道具として利用されていたはずだから。
そう・・・あの頃と同じように。
ツナの脳裏に、家族との、仲間との、そしてボンゴレとの決別を決めたときの光景ありありと蘇ってきた。
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