SHORT
□仰向ける雨
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微死・血表現有。ですがハッピーエンド風味。
彼らには分かりません。彼らには分からないのです。分かりたくないのかもしれません。
愛があるのか、果てはそこにはないのか。
死にたくなるような海の中で、夢を見ていました。
「赤いね」
「煩ぇ」
「痛い?」
「黙れ」
ああ、彼らは赤い海の中で、死に損なっていました。
二人分の赤ではありません。一人は壊れただけでした。
「痛くないの?」
「痛ぇのはお前だろ、」
「でもバキバキだよ?すっごい痛そう」
「神経通ってねえしな」
可哀想に、泣いてはいませんでした。それは感情が欠落している訳ではありません。
泣く必要がありませんでした。
「ねえ、死んだらさ、"夜の生活"ってのが出来るね」
「生まれ変わるかは分からないがな」
「夢がないなー」
「これから腐るほど見られるじゃねーか」
「それもそうだ」
現実が見えなくなった彼らは、夢の話をしました。
それらしい話でした。とても夢がある話でした。
「豪邸に住もうね」
「城に住まわせてやるよ」
「でも、和式もいいな。畳がびっしり」
「表現っつーもんがあんだろ」
一つ一つ、確かめていきました。それは数にするととてつもない多さでしたが、大きさは今の彼らにはささやかでした。
「猫を100匹飼うよ」
「馬鹿か、従順な犬のが良いに決まってんだろ」
「じゃあ50匹ずつにしよう」
「妥協してやる」
彼らには希望がありました。少なくとも、現実にはありませんでしたが、それでもしっかりと見えていました。
「子供は野球で家族内対抗戦ができるくらいね」
「サッカーでもいい」
「たくさんね、たくさん」
話は未来の未来に伸びていきます。真上だったはずの太陽が沈んでいきました。
「どっちが先に生まれるか、競争ね」
「それなら、俺に決まってんだろ」
「どして?」
「俺のがお前に早く会いたいからに決まってんだろ」
「なら私も負けてないわ、私も大好きだもの、絶対負けないんだから」
「クク…、素直に喜んどけよバカ」
「照れてるヤツに言われたくないわ」
「黙れ」
彼らは泣きません。彼らは泣きたくないのです。死の淵に立っていることも、誰かがどこかで泣いていることも。
ただ、笑顔で抱き合って眠ったのです。
骨まで絡まり合うように、抱き合って眠ったのです。
世界の際まで、
あなたといきていたい