薄明

□黄白
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 黄の国
「あっ!姫様だぁ!!」
「早かったねぇーっ」
「これはこれは蜜柑様。こんな所まで
申し訳ございません」
「ええんよ。ほとんど、
逃げてきたようなもんやしな」

マントのフードをばさりと上げ、
黄の国の王女は笑った。
幼い子供たちに手をひかれて家に
入ると、カーテンの引かれた薄暗い部屋に
いたのは、ひと組の親子。我の強い少年が
そのまま大人になったような父親と、気の弱そうな
母親と、おどおどと周りを見回している幼い女の子。

「初めまして。ウチは黄の国の蜜柑や。よろしゅうな」
「み、蜜柑様・・・」
「俺たち・・・紅の国から逃げてきて・・・」
「わかっとる。わかっとるよ。
大丈夫や、ウチらが守ったる」

黄の国の王女の笑顔に、紅の国の住人だった
親子は涙して、深々と頭を下げた。


  ★☆★☆★☆★

「それにしても、紅の国の政治はヤバいな・・・」
「今月に入って、何人目かしら?」
「今は8月の下旬やけど、ウチが会った人ら
だけで、15人や」
「この国では、一家族に1人は働いてるから、
路頭に迷ってる奴らは、紅の国の奴らだ。
蜜柑、探して会ってきてな」
「わかっとる」
「昨日の人たちはどうしたの?」
「あ、せや。仕事見つけるまで家に
置いとってくれるんやて」
「上出来だ」

蜜柑の頭をなで、王はにかっと笑う。
それとは正反対に、后は唇を噛んでうつむいた。

「馨さんが亡くなって、半年・・・」

紅の国の女王と、蜜柑の母である黄の国の后は
幼なじみであり、親友であった。
元々、后は紅の国の貴族の娘だった。
黄の国の王、つまり蜜柑の父の、后選びの
パーティに后を連れていったのは、他でもない、
紅の国の女王であった。后が黄の国に嫁いでからも、
手紙のやり取りは絶えなかった。
そして、今年の2月。

紅の国の優しく、聡明な
誇り高き女王は突然倒れた。

后は知らせを聞き、すぐに女王の元へ
向かったが、間に合わなかった。
最後に会ったのは、后が黄の国に嫁ぐ時に
1度会ったきり。17年ぶりに見た親友は、
もう、冷たくなっていた。
父親もとうの昔に亡くし、母親まで失った、
16歳の王子と14歳の王女は、その時ばかりは
ただの少年と少女で。
声も出せずに号泣する妹の肩を抱き、
兄は唇を噛み締め、母の顔を、姿を呆然と
見つめていた。2度と動かぬ母の姿を、ずっと。
50日間、喪に服していた王子が王となり、
紅の国は全てが変わった。
紅の国は、絶対的権力で国を治めるようになった。

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