その他
□早くしてね、時間がないの
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深夜。
彼がやっと帰ってきた。ちなみに彼が言っていた帰宅予定時間をかなりオーバーして。そのせいでせっかく用意した夜ご飯が無駄になった。ああ、恋人の私でも腹が立ってきた。
「臨也、遅い」
「.......」
シカトですか、おい。
彼は焦点の合わない目でふらふらと寝室へ向かう。なんだか様子がおかしい。
「ちょっと...大丈夫?具合でも悪いの?」
私の呼びかけにも何の反応も見せず、そのままベットになだれ込む。
「きゃっ 」
何故か私を巻き込みながら。
「ちょっ...離しなさいよ」
私は彼の下敷きになり、見事なまでに押し潰されていた。息が苦しい。彼は私を離すどころかぎゅっと強く抱きしめてくる。
バタバタと抵抗していると、ふと、一気に彼の力が弱まった。
「臨也....?」
すー すー という規則正しい寝息が聞こえる。こいつ、寝やがったな。
「おーい」
私は彼の肩を叩いてみたり、頬をつねったりしてみたのだが全く起きる気配がない。いつもは触る以前に、どんな小さな物音でさえも感じとって起きる彼にしては珍しい。貴重な熟睡シーンだ。
ふと、私の脳裏にある事がひらめいた。
この滅多にないチャンス、私は即座に実行することを決めた。
朝。
「おっはよ臨也!」
「ん...あぁ..」
私は寝室から起きてきた彼をとびっきりの笑顔で迎える。私の満面すぎる笑顔に彼は訝しんでる気もするけど気にしない気にしない。
「....朝シャンしてくる」
私を怪しみながらも、彼はいつも通り朝シャンへ向かった。
ふふふ、出てきた時が楽しみ。
10分後、案の定この一室に叫び声がこだました。
「っ!!」
「あら臨也、どうしたの?そんなに慌てて」
「これは一体どういうつもりかな?」
「見たまんまよ。たまにはイメチェンも必要でしょ」
「必要ないしこれはイメチェンというには悪趣味だと思うんだけど?」
彼の手に握られている服が突きつけられる。それは、『I ラブ 寿司』とプリントされた外国人向けのお土産にあるようなTシャツ。他にもショッキングピンクのダウンジャケットに、○○レンジャーがプリントされた子供向けパジャマズボンがある。
そう、私は日頃の鬱憤の仕返しに、彼の服を取り替えておいたのだ。ちゃんと抜かりがないように、ついさっきまで彼が着てた服は洗濯、クローゼット内の服は全部夜中に出して遥か遠くへ郵送しておいた。
「って事で残念、着るものはそれしかないのよ」
「....波江に頼んで新しい服を買ってこさ「それは無理だよ」
いつも彼がしているような嫌味な笑顔を向ける。
「だって5分後にはもう、九十九屋さんがここに来るもの」
「.....は?」
「だ、か、ら、5分後にはもう九十九屋さんがここに来るの!だから早くしてね、時間がないの」
「...後で覚えてろよ」
「アッハハハハハ!アハ、ハハッ!アハハハ...ハー.....アハハ!」
「何馬鹿みたいに笑ってんのかな?ああ仕方ないか、実際に馬鹿だもんね君は」
「あー可笑しい、その負け惜しみなセリフは余計にお前を惨めに見せるから止めた方がいいぜ」
「......」
「いやぁ君の彼女は相変わらず最高だな。俺のものにしたいくらいだ」
「さりげなく略奪しようとするの止めてくれない?」
「ハハッ、その格好で言われても面白すぎる...アハハハハハ!」
「刺すよ」
彼はその日、ずっと笑われ続けたのであった。
Serve you right!
(ざまあ見ろ!)
企画サイト「優越感」さまに提出させて頂きます!
今回はこのような素敵な企画に参加させて頂き、ありがとうございました!