subsurface erosion 〜地下浸食〜

Nocte
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記憶というものは、便利なものだ。

傷も痛みも涙も怒りも後悔も。

全てが時の移ろいに、溶かされて誤魔化されて薄められて。

そしていつの間にか、僅かなほろ苦さをまとった甘みとなって、ざらついた舌の上でころころと踊り回るんだ。

その時に大概の人は、断ち切る意味も込めつつ、現状打破を試みつつ、自虐的な歪んだ笑みを溶かして欲しいと願いつつ、過去の波に身を委ねるんだろう。


『記憶』と『思い出』が背中合わせの兄弟なら、

『過去』と『この先』は双子の姉妹のようなものかもしれない。


寄り添いながら、生きていけるだろうか。

寄り添うが故に、浸食し合い、全てが虚無に帰らないだろうか。


君が、愛しい。

今の自分は、全部を以て、君を欲している。


今だけでないと誓いたい想いを、エゴと呼ぶならそう呼べばいい。

現状の信念も、その場の否定も、根底の確率から言えば同等なんだ。

ただ、信じるか信じないか。


記憶に埋もれさせたい過去。
でも逃げてはいけないと。

君の目を見る度に思う。

君の目に映る自分に問う。


この想いは何なのか。

刻々と移りゆく人の心は、パンドラの箱かもしれない。

妬み、怒り、悲しみ、嘆き、嫉妬、その他の影もたくさん詰まっている。

けれど、最後に残るのは。


手を、伸ばそう。

その肌に、触れよう。

同じく触れて欲しいんだ。


この先、舌で溶かされて飲み込まれて忘れ去られる記憶となろうとも、それでも。



俺は、君が、愛しい。










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