subsurface erosion 〜地下浸食〜

Autarcesis
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ガシガシ

左手の親指で、左足の親指を擦る。
左手のそれは左足のそれよりも弱く、擦る度に白っぽい粉を産み出していっている。
足のそれにこびり付く赤いそれは剥がれもしないのに。

また、無駄に終わった。
剥がれないそれはその色以上に私を責める。

明るい紅。
角度を変えれば輝きをも変える色。
艶めかしいはずのそれは、僅かな時間に何もかも劣化させる術を持っているらしい。

たかが数週間。
されど数十時間。
確実に「今を生きる女」としての己は消えていく。

他の指はとうに消えた。
残るは親指のみ。
それも剥げて消えかけているそれを、誰が美しいと囁くのだろうか。

慈しみと同情は違うのだ。
時に任せる以上、私はこの色をなくす術を知らない。

貴方が私のそれを見る事は、万が一の確率でしかなく、途方も無い憧れの果てだ。
想像だけで一喜一憂するしかない私を、どこまで貴方が理解するだろう。

優しさが残酷だと知らない大人は子供でしか無く、エゴイスティックさは時として、相手に血を流す事を求めるのだ。
目に見えぬ、奥底の鮮血を。
そしてそれが、己の業だと取り違えた哀しむべき悦に陥る。
何処の誰が、己以外の悲劇のヒロインを求めるというのだ。
気付くのならば、いっそ子供のままでいたかった。


そして私は今宵もまた、色の無いネイルを己の上に厚く塗りたくる。

自分の為に、女の矜持のその果ての為に。

いつかその爪ごと、もげると知っていても。


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