中編
□細腰を抱き寄せる
1ページ/1ページ
「私のどこが好きだ?」
貴子はよくそんな事を聞いてくる。
だから私は“全部好きだよ”って答える。
だって貴子の全部が好きだから…
鬼コーチって言われてるけど、部員のことちゃんと気にしてる貴子。
不器用だから厳しくしたり、素っ気ない態度を取るけど…
部員の成長を実は一番喜んでたり、負け試合に一番責任を感じてたりする貴子が好き。
いつもはこれで安心したように息をつく貴子だけど、今日は何か違う…
「全部は無しだ、具体的に。」
こんなに問い詰められたことは無いから、少し戸惑う…
名無しさん…
貴子が私のことを呼ぶその声にドキリ、心臓が跳ねる。
部活の時とは違う色香を含んだ声―
普段はコーチと部員。
いわゆる背徳恋愛…とでも言うべきか…
部では貴子の面子を考えて、あくまでコーチと生徒の関係。
私たちの関係を知っているのは、美穂子だけだ。
(美穂子には何故かバレてた…)
『久保コーチの…変態な、とこが、嫌い…』
二人きりの時の貴子の積極的な態度に思ってもいないことを言って困らせたくなる。
「…ほう、どの口が言うんだ?」
少し苛立つ貴子も、強引にキスをする貴子も…
夜のちょっとSっ気のある貴子も…
みんなみんな大好きなんだよ―
貪欲にキスをねだる貴子の
細腰を抱き寄せる
(私たちはずっとこのまま幸せでいられると思っていた―)