文章

□遠くて近い
1ページ/4ページ



僕が染岡君に好きだと告げたのは、まだ日射しの淡い春先のことだ。
染岡君は真っ赤な顔をして、それから僕を抱きしめてくれた。

告白の返事をもらったわけではなかった。
照れ屋な彼のことだ。スキだのなんだの軽々しく口に出来ないだろうとわかっていた。
しょうがない。
言葉にしてくれなくても彼の態度で、染岡君が僕のことを好きなのがわかったから。それだけで十分嬉しかった。


 だけど。


「ハァ・・・・・・。」
練習後の部室で皆と一緒に着替えながら溜息をついた。

明日から冬休み。
今日は終業式だったけど、午前中で終わってしまったから、その後はいつも以上にみっちりと部活をやった。

溜息が出たのは、身体の疲れのせいばかりじゃない。
告白したあの時から、時間はどんどん過ぎて、気付けば木枯らしの吹く季節になっている。
それなのに僕と染岡君の仲は微妙な関係を保ったまま、全く進展していない。
もっと近づきたいのに。宙ぶらりんのままの距離が苦しい。
最近では二人きりになると、なんだか気まずくなって、どちらからともなく黙り込んでしまう。

今更僕は焦りだしていた。
もしかして、僕の告白って、なかったことになってるんじゃないか?



そんな時だった、僕の耳に馬鹿馬鹿しいとしか言いようのない噂が飛び込んできたのは。

「染岡君と塔子さんがつきあってるぅ?」

あり得ないですねとメガネを押し上げながら、鼻で笑う目金君に、半田君が言葉を続けた。
「けど休日にあいつらが二人で歩いているのを見たんだよ。」

部室を見回すと染岡君の姿がいつのまにか無い。
・・・・・・先に帰っちゃったんだろうか。

「宍戸も見た。あいつらが一緒にマンションに入って行くのを!」
「それに最近、二人でいる事多いだろ?」
よりにもよってあの二人って、面白すぎですよその冗談。 目金君のしゃべる声をぼんやり聞きながら、僕は考えた。

言われてみれば、たしかに。
最近の染岡君と塔子さんは、よく二人で何か話している。
今日も短い休み時間に、わざわざ遠いクラスの二人が廊下で立ち話をしていた。たいして気に留めなかったけど、よく考えれば不自然かもしれない。

いや、でもまさか。

・・・・・・・・。

すばやく着替えを終えて僕は部室を出た。
校門のところに立って、あたりを見回す。
と、小さく遠ざかっていく染岡君の背中を見つけた。


塔子さんと一緒だった。





 *
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ