人魚姫

□3つ
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「………」

「………」



ら、

見知らぬ女が居ましたけど。


立ち泳ぎしてるね。てか、いつの間に泳いできたの。顔だけ水面から出てるし。どれだけ泳ぎ得意だったらそんな余裕な表情が出来るんですか。

…まあそれはいいか。


なんにしろ、バケモンより得体の知れない女のほうがずっとマシだ。と脳内で安心したところで、取り敢えず話しかけてみよ。



「…あの、なんか俺によ、ようですか?」

あ、声裏返っちまった。


「…別に?珍しかったから、つい好奇心で」



そう言って、ニコリと笑う彼女。

思ったけど、コイツ結構可愛い。
顔だけしか見えないのが残念だな。



「珍しい?ああ、この髪か。オネーサンは一人?あぶねーよ?」

「だいじょーぶ。泳ぐのは得意だからね」


そう言うのは頷ける。
だってさっきから立ち泳ぎなげーもん。疲れねーのか?

小首を傾げた瞬間、俺の中の何かがひらめいた。



「じゃーさ、一つ頼み聞いてくれる?」

「頼み?私に?」

「そーそー。俺を砂浜近くまで引っ張って行ってほしーんだけど」



我ながら初対面の奴に向かって馴れ馴れしいとは思う。が、太陽が傾いてきたのを見て少し焦っていた。


長谷川さんが確か、夕方近くには店仕舞いするとか言っていたのを思い出した。ドラマの再放送は諦めよ。


まぁそれは置いといて、肯定とも否定ともいう返事がないその彼女は「わかった」とだけ言い残してざぷんと潜っていった。




…ちょっと待て。


潜る瞬間に見えた肩や腕が細っそ!白!なんて思ってる場合ではない。

あのコ、上半身

ハ、ハダk…


バッッシャァァァ!!


「うをををを!?」



突然引っ張られたと思ったら、浮き輪をガッシリ掴んで彼女は泳ぎだした。いや、ガッシリかどうかは顔面に容赦なく叩きつけられる海水で見えないんだけど。

とにかく、速いのなんの。ベンもびっくりだよ。キタジマも気持ちいい言ってらんねーよ。てゆーか、顔が痛ェ!!



そしてほんの数秒後、ゆるゆるとスピードを落とした彼女は止まった。

海水でしみる目を開けると、もうすぐで浜辺というところ。


「ここでいい?」

「お、おう。ネーチャンはまだ泳ぐのか?」

「…うん、まだ泳ぐよ。またね!」

「おー、ありがとよ。世話んなった」



手を振り、浜辺へと俺は泳ぎだす。



(…あ、名前くらい聞いておくべきだったか)



そう思って振り返ったが、そこにはただただ沈む夕陽と、それに染まる海が広がっているだけだった。

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