庭球
□愛と勇気が友達です
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今日は立海から少し離れたテニスコートでレギュラーだけ練習試合をするらしく、個人で集合しろと幸村部長に言われた。時間通りに来ないとわかってるよねあはは、と微笑みながら言われたら俺たちに拒否権なんてあるハズがない。
そんなわけで俺は今朝イチのバスに乗ってる。朝の苦手な、俺が!今日の俺ちょー偉い、絶好調かも!
んでも、時々小さく揺れる車体と空調加減の良いバスは俺の眠気をじわじわと引き出していくわけで。段々と瞼は落ちていくわけで。
(あー…ここで寝たらヤバい。確実に降り過ごす。遅刻したら副部長の鉄拳かな…あれすんげぇ痛ぇんだよな…でもこの状況はとてつもなく気持ちー…あーあ昨日遅くまでゲームするんじゃなかっ…、)
と後悔の念が沸き起こる前に俺の意識は途絶えた。
停車のブレーキと共に、身体が前のめりにガクンとなって意識が浮上する。あれ、俺いつの間にか寝てたのか…。どうやら目的の場所より3つ降り過ごしたらしい。やっべぇ!
走って走って、辿り着けば既に試合は始まっていた。兎に角遅刻を謝ろうと駆け寄ろうとしたけど、異様な雰囲気に足を止める。
辺りを見渡せば、コートに這いつくばるジャッカル先輩と、それに厳しい視線を投げ掛ける部長たち。あ、副部長が近付いてった。
これは…
「す、すまねぇ真田!油断してたんだ!」
「油断だと?言い訳など聞かん!たるんどるわ!!」
パアァアンと真田副部長の鉄拳を喰らうジャッカル先輩。それを見て、血の気が引いた。もっとも、いつもの鉄拳なら(慣れかもしんないけど)そんな驚く程じゃない。
ただ、今目の前で起こったのを見れば誰だって顔を青くさせるだろう。
だって、だって!
ジャッカル先輩の、叩かれた、あた、頭が、
ぽーーーんっ、て…
ゴトリ。
それは、俺のすぐ足元に落ちて転がってきた。
俺の驚きと恐怖で見開いた目と、色を失い瞳孔の開ききった先輩の眼が合う。
なん、だよ…これ
これが、ジャッカル先輩?
あの、いつも優しかった、せんぱ「ジャッカル、新しい顔だよ!」
え?
そう叫んだ幸村先輩のナイスなコントロールで勢いよく投げられたそれは、先ほど副部長による制裁によって頭部の無くなったジャッカル先輩の首に綺麗におさまった。
と同時に動き出す肉体。
「元気100倍、ファアイッヤァァア!!」
両チームから沸き上がる歓声と拍手。それを茫然と眺める俺。その俺に気付く真田副部長。て、ちょちょちょ!
「赤也!遅刻とはいい度胸だな。お前にも制裁が必要らしい、来い!!」
ひぃっ、と声にならない悲鳴が口から洩れた。
は?は!?
何がなんだかもう訳がわからない。未だに俺の脳みそは状況を処理出来てない。むしろ思考回路はショート寸前!
ズンズンと鬼の形相で近付いてくる真田副部長と、未だ眼をかっ開いて俺を見つめてくるジャッカル先輩の生首はもはやホラー以外の何ものでもない。兎に角此処から逃げたい。怖くて怖くて仕方がないのに何故か脚は鉛のように動かないうわあああもう駄目だ。
(俺の頭も吹っ飛ぶのかな…)
振り上げられた副部長の手を見たのを最後に、来るべき衝撃に備えてギュッと目を閉じた。
停車のブレーキと共に、身体が前のめりにガクンとなって意識が浮上する。あれ、俺いつの間にか寝てたのか
って…え、 ……あれ?
2012 0216
その日赤也は真田とジャッカルを避けまくったとか。