拍手掲載小説

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姉ちゃんが俺に内緒であいつの元に行こうとしてるのは知ってた。

姉ちゃんは泣き虫やし、家族と別れの日やなんて、きっと我慢出来へんやろうと思ってたから……。

『転勤が早まったから、アタシもついていく』

それだけしか俺に教えてくれへんかった姉ちゃん

『いつ?』って聞きたかった言葉は、ぐっ…と喉の奥にしまい込んだ。

別れの日に泣かれたら、『行くな』って俺の腕に抱きしめてしまうから……

せやから、何も聞かずに過ごした。

もう姉ちゃんを困らせへんて決めたから……

姉ちゃんを愛してるけど、『女』としてやなく、『姉』として見るように努力しようと決めたんやから……



『心配しとったで?あんたにも祝福してもらいたいのにって……。このままやったら、彼の元に行く気にならへんって……』

姉ちゃんの親友である優実姉の話

姉ちゃんは俺が認めるまで、結婚を延ばそうか悩んでたらしい。

それを聞いて、これ以上、自分の気持ちを表に出すのはよそうと思った。

姉ちゃんに『好きや』と言うた事も……

歯止めがきかんくて、姉ちゃんにキスをしてしもうた事も……

全部『冗談』やった事にした。

姉ちゃんを不幸にしたいわけやないから……

俺のこの想いは報われるわけないとわかってた。

赦されるはずのない想いなんやから……

この罪に姉ちゃんを引きずり込んでしまいたいと思うた事もあるけど……

笑ってる姉ちゃんが好きやから……

だから俺のこの想いは、俺の胸の中に封じ込める決意をした。

あいつなら、姉ちゃんを幸せに出来る。

悔しいけど、ホンマはわかってるから……




深夜のテレビを見ながらソファーで眠ってしまった日の朝

物音を立てずに支度をしている姉ちゃんに気付いた。

ぁぁ…今日、あいつの元に行くんやな……

そう直感した。

引き止めてしまいそうな衝動を抑える為に、俺は寝たふりを決め込んだ。

姉ちゃんは俺の傍に近寄る事なく、玄関へ足音が遠ざかる。

しょせん、俺はただの『弟』なんや……

あいつの元に行くんが待ち遠しくて仕方ないんやな……

虚しさに苛まれながら、目を開けようとした時

遠ざかったはずの足音が再び近付く気配がした。

静かに俺の傍にひざまずく気配

俺の頬に触れる愛しいヒトの掌

「愛してる」

ぇ……?今、何て言うたんや……?

俺は自分の耳を疑った。

しかし……

唇に触れた柔らかな甘い感触

いつか酔いしれた姉ちゃんの甘い唇

俺はどうしようもなく、胸が高鳴って……

「さよなら……」

姉ちゃんは何かを決心したように呟いて……

遠ざかった足音は、今度こそ戻ってくることはなかった。



「……姉ちゃんも…俺を愛してくれてたん……?」

まだ残る感触に、俺は唇をなぞった。

せやけど……あいつを選んだんやな……

俺やなくて、未来あるあいつとの恋を……

「……くそっ……」

悔しさにテーブルを蹴飛ばした。

もしも……

もう一度、この腕に抱きしめる事が出来たなら……

「……離さへんからな……姉ちゃん……」

そんな日が来るかはわからへんけど……

その時は共に罪に堕ちていこう……

だから今は……

「姉ちゃん、結婚おめでとう……」

-END-



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