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□万屋時代店
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「よう。お前一人とは珍しいな。市さんはどうした?」
妻の名前が出ると、いつもの気難しそうな顔が少し緩んだ。
「一応起こしたんだが、なかなか起きなくてな。少し寝かしとくことにした」
「相変わらず市さんには甘いな」
長政がたしかにな。と苦笑すると自分の指定席に座った。
その後も二人でたわいもない会話をしていると、なにやら廊下が騒がしくなってきた。
「すいませんけど、誰かここを開けて」
声から察するに佐助だ。
長政が襖を開けると両手いっぱいに膳を運んできた佐助がいた。
「ありがとうございます。長政様」
「大丈夫か佐助。それでは前が見えないだろ」
「それは平気ですよ。俺の仕事忘れたんですか?」
しゃべりながらでも膳を綺麗に並べていった。
「さてと。俺はいまから幸村様を呼んできます」
三角巾と割烹着を脱いで簡単に畳むとそれを小脇に抱えた。
髪を軽く手で整えると部屋から出て行った。
「なら、私も市を起こしてこよう」
長政も部屋から居なくなると政宗一人になった。
「さすがにあいつらは起きてるだろうな」
いつもなら、自分を起こしにくる時間だから今頃部屋にいない自分を探しているところだろう。
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