ゴミ箱
□頭打ったらこうなった
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「ウィーちゃん?」
心配そうに知弦さんがその名を呼ぶ。
しかし、その言葉にハヤトが反応することはない。
「すいません」
「な、なぁに?」
会長は引き気味に答える。そして、ハヤトは知弦さんを指さしてこう言った。
「この人、誰です?」
その一言はあまりにも衝撃すぎた。
そして、それはハヤトの冗談ではないこともわかる。
こいつは絶対に知弦さんが傷つくことはしない。それだけは誓って言えた。
しかし、ややこしいことになった。ハヤトが、知弦さんの部分の記憶を失っているのだ。
話によると、他の部分は忘れていないらしい。
「なぁ、俺たちのことは覚えてるんだよな?」
「ああ。お前が杉崎。そこのツインテールが深夏で、頭にリボン乗せてる君が妹の真冬ちゃん。そして、俺の正面にいるのが桜野会長だろ?」
「あぁ、じゃあ、この人は?」
「だから知らないって。ドッキリとかじゃないのか?」
駄目だ、なまじ記憶がある分自分が記憶喪失だと思っていない。何か、ないのか…?
「そ、そうだ。知弦さん、何かハヤトとの思い出のような品持ってません?」
「え、ええ。探してみるわ」
そう言って知弦さんは急いでカバンの中を探す。こんなに慌てる知弦さんは珍しい。
やっぱり、本当に大切なんだな。ハヤトが。
「…なぁ、杉崎」
「なんだ、ハヤト?」
「あの人、俺は知らないけど、なんとなく大切な人だってことは、わかるぞ」
「…そうか。それだけで、今は十分だよ」
「そうだぜ。少しずつでも、思い出していけばいい」
深夏が言葉を付け加える。ハヤトは少し安心したように微笑むと立ち上がり、知弦さんの方へ歩み寄った。
「俺も、探しますよ。俺のカバンに何か入ってるかもしれませんし」
「え、えぇ。頼むわね」
「はい、えっと、名前は?」
「あ…、紅葉知弦よ」
「はい、紅葉さん」
「知弦…がいいわ」
「あ、わかりました。知弦さん」
そう言ってハヤトは自分のカバンを漁り始める。それを横目で見ていた知弦さんは、何故だか少しだけ笑顔が戻ったような気がした。