NOVEL

□愛しても愛しても、愛し足りない
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「ええ、じゃあご一緒していただけますか、レディ。」

「喜んで。」
ミラは最上級の笑みを浮かべた。



















その頃。

「ねえ、ケリー…どういう意味だと思う?」
先程のエドガーとの出来事を一通り話終えたリディアはケリーに尋ねる。

「…普通に考えれば浮気宣告ですよね。」

「…う……。やっぱり夜会に行った方がいいかしら?」

「どうでしょう?…あ、突然行って旦那様を驚かせるとか、どうですか?」

「浮気中だったらどうしよう…。」

「だったら尚更止めなくては!」

「……………。」

「大丈夫です。旦那様はリディア様だけが好きですから。」

「そうかしら?」
リディアは自信なさ気に首を傾げた。

「そうですよ!とにかく今から夜会に行く準備をしましょう。」
ケリーはなかなか煮え切らないリディアをドレッシングルームへ押し込んだ。
















「ところでひとつお尋ねしてもいいかしら?」
ミラ嬢がエドガーに聞く。

二人は今、夜会にいる紳士淑女の注目の的だ。
何せ、あの自分の妻に溺愛しているアシェンバート伯爵が他の女性と踊っているのだから。
それに、ミラ嬢の方も希少なほどの美少女だ。


「はい、僕に答えられることであれば。」

「奥様にはどうやってプロポーズしたのです?」

「…え…何故そんなことを?」
エドガーは曖昧な顔をした。

「今後、わたくしも結婚するかも知れないでしょう?その時の参考に。」

「…普通に結婚してくれ、と頼みましたけど。」

「でしたら奥様は直ぐさまお返事したのでしょうね。」

「あぁ、最初の返事はNOだった。」

「なぜです?伯爵ほどの好青年なら、断る理由なんて…」

「彼女は人を外見だけで判断するような人間ではないからね。」

「…断られたけれどもう一度プロポーズした、ということですか?」

「彼女の首を縦に振らせるまで一年かかった。何百回求婚したかなんて、もうわからないかな。」

「まあ、そんなに?……でもわたくし、ちょっとわかる気がします。」

「何が?」

「奥様の気持ち。」

「なぜ?」

「だって伯爵は数年前まで何人もの美女と浮名を流してらっしゃったもの。」

「…そこは否定しませんけど。」
エドガーはまた困ったような曖昧な表情を浮かべた。

「わたくしも普段のお付き合いで伯爵のように見目麗しい方とご一緒できるのは嬉しくとも、
結婚となると毎日生活していかなくてはいけないでしょう?だから不誠実な方は選びたくないですもの。」

「それは辛口な意見ですね。」
エドガーは苦笑した。

「けれど、それは過去の伯爵。今は違うのでしょう?」

「ええ、妻だけを愛してますよ。」

「今の伯爵だからこそきっと、今まで以上に女性を魅了してしまうのでしょうね。」
ミラ嬢は悪戯っ子のように微笑んだ。

「では、あなたも?」
エドガーも茶化したように笑う。

「ええ、その魅了された一人でしょう。……。」
そう言った彼女は、しまった、とでも言いたげにエドガーの後ろの方を見ていた。
エドガーも不審に思って振り返るとそこにはリディアが立っていた。
ただ、どういう気持ちなのかはわからない。
微笑むでもなく、怒るでもなく、また悲しむでもなくぼんやりした表情をしていたから。

 
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