記念部屋

□20万HIT記念
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「寒くなってきたね」



出会ってどれだけの年月が過ぎたのだろうか

月夜に照らされた黒沼はそのまま消えてしまいそうに儚くて

――美しかった




本当はもう、わかっているんだ


彼女の瞳には俺が映っていないことを・・・


本当は・・・知っているんだ

もう、彼女の心を奪っているのは・・・


――――俺じゃない事を・・・



「黒沼・・・」

「風早くん・・・」



優しく名を紡げば

こちらを向いて笑って俺を見てくれる

瞳を重ねれば逸らすことなんて出来なくて


何度も重ねた唇には・・・


今は触れることが出来なくなってしまった


その、唇は・・・


今となってはただ、俺の名を紡ぐだけのもの


重ねてしまえば、きっと止まらなくなるから

欲しくなるから

きっと俺が欲すれば、委ねてくるだろう


だけど、俺は傷付けたいわけではないんだ



だから、優しく俺の名を紡いでくれればいい

気持ちを殺して俺に笑ってくれればいいんだ



「ふふ、どうしたの?」

「え?」

「風早くん、何か悩み事?」



“ここに皺出来てるよ”と言いながら

俺の眉間へ白く細い指がトンと触れる


それだけで、そこに熱の花が咲くのを

―――黒沼は知らないだろう


また、小さく笑って“どうしたの?”って優しく笑えば


離せなくなるのを


――黒沼は、気付いていないだろう



「あ・・・俺、そんな変な顔してる?」

「変なんて!」



慌てて手をブンブン振る彼女は何も変わらないのに

純粋な彼女は真っ白なまま


出会った頃より幾分大人になった俺たちだけど・・・


何も変わることは無いとあの時は信じていた


ずっと彼女と過ごすのだと・・・


日毎に増していく彼女への想いは

封じることなんて出来なくて彼女へと向かっていた



俺の未来には彼女がいて・・・

彼女の未来には俺がいるのだと

信じて疑わなかった



だけど、あの時と何が変わってしまったのだろうか



こんなにも・・・

彼女の笑みはあの時と変わらず綺麗なのに・・・


こんなにも・・・

俺の想いはあの時と変わらず彼女を想っているのに



彼女の気持ちは・・・




「ははっ!そんなに慌てなくて大丈夫だよ!解ってるから」



誤魔化すように笑えば

ホッとしたように胸に手をやる彼女がこんなにも愛しいのに・・・



「なあ、黒沼・・・」



黒沼の澄んだ瞳に映る俺は・・・

今、どんな顔してる?

黒沼にはどう、映ってる?



「どうしたの?風早くん・・・最近、元気ない?」



ふわりと抱きしめた身体は

抵抗無く俺の腕の中にすっぽりと囚われてしまうのに


黒沼の気持ちを捕える事は出来ないんだ



なあ、黒沼・・・


“好きな人できた?”って聞いたらなんて答える?


“別れよう”って言ったら・・・


嫌だって否定してくれる?


俺は黒沼に“別れよう”って言われても・・・


頷くことは出来ないんだ



ごめんな



わかってるのに・・・



もう、俺は手離すなんて出来ないんだ


黒沼が言えないのわかってて

その優しさに甘えてるんだ



「黒沼・・・大好きだよ」



それがもう返ってこない言葉だとしても

それが黒沼には届かないってわかっていても・・・


それが


――黒沼が欲しい言葉じゃなくても


俺にはもう言える言葉が無いんだ


ごめんな

黒沼



否定しきれないキミ頷けない



(私も・・・大好きだよ)

(え?)














20万HITありがとうございます
やっと第一段初っぱなから何故か切ないお題(笑)
でも、風早は好きになりすぎて
自分の気持ちが大きくなりすぎて
爽たんの気持ちがわかってないんだよってお話でした
どうでしたか?自分なりにはちょっと気に入ってます
ここまでお付き合いありがとうございました
また良かったら遊びに来てやって下さい



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