長い妄想(君☆届連載)U


□お似合い
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お似合いD



「まっ、待って!」



!!!!!


サワサワと優しい風が吹き抜けた


学校で一番空に近い場所



扉に向かって歩いていた俺の背中へ黒沼は抱き付いてきた


背中にも心臓があるのかもしれない
背中が焼けそうだった



身体全体が音を奏でていた


ドクンドクンと大きく打ち鳴らしていた胸は
次第にトクンと優しく鳴り始めた


背中にある温もりが落ち着かせてくれている



「いっちゃ、やだ」



ギューッと俺に抱き付くのが愛しくて
この温もりを手放そうとしていた自分を知った



きっとあのままじゃ、そうなってたかも


“好き”だけが大きくて


でも……



「黒沼、手……離して」



ピクリと黒沼の手が一瞬緩んだけど
またギューッと強くなった



俺のお腹まで届かない細く小さな腕で
必死で俺を受け止めようとしてくれているんだ


腕に触れると力が抜けてそっと離した



クルッと後ろを向いて
―――抱き締めた



「こうしたかったんだ」



抱き締められるのも良いけど……
やっぱり抱き締めたい


俺の腕に閉じ込めたい




「ごめんなさい」

「どうして謝るの?」



彼女からの謝罪の言葉が俺を不安にさせる


何に“ごめん”なのだろうか



「私が……手放せないの……」



背中に回っていた手に力が入るのがわかった

小さな小さな力なのに
酷く強く感じて自分にとって彼女の黒沼の存在の大きさを思い知った



「好きなの……好きっっ」

「――っ!俺だって好きだよ!
 手放せないのは俺の方だよ!」



いったい俺は何をやってるんだよ!



“好き”だけじゃダメなんかじゃない


この気持ちがあれば大丈夫なんだ



「あの、さ……」

「あ///」



暫く抱き締め合って声を掛ければ
緩んだ腕の中で俯いていた黒沼の耳は真っ赤になった



「えっと///一つ聞いていい?」

「う、うん///」



改めて自分の行動とか想いが恥ずかしくなって
こちらまで赤くなってしまう


「アイツさ、」

「アイツ?あ……しょうやくん?」



ジリッと焼け付く痛みを感じる



「その呼び方……やめて」



幸せだったはずなのに現実に戻されて
それがまたアイツの所為なのが許せない



わがままだって解ってる


解ってるけど……



「俺だって“風早くん”なのに……それなら俺だって……」




もう一度呼んでほしい


特別に感じたんだ
彼女から呼ばれた名前は凄く誇らしくさえ感じたんだ


それをアイツは……



「で、でも!しょうやくんは、しょうやくんで……」



俺のわがままの意味もわかってないのだろう


でも、そこは俺だって譲れない!



「俺だって、下の名前で呼んで欲しいっ!」



自分でもホント子供じみてると思う


名前くらいでなんて思えるほど人間できてもない



「え、えぇ?そ、そんなっ!きゅ、急に……む、無理です〜〜っ」

「どうしてっ!」



慌てる黒沼を宥める事も譲ることも出来なくて
更に追い込むような口調になってしまう


俺の怒りにも似た声に黒沼は真っ赤になって驚いた



「黒沼の彼氏は……俺でしょ?
 黒沼は……彼氏じゃない男の名前は呼ぶのに
 なんで………何で俺は無理なんだよっ……」



情けない声が出る



呆れたかも知れない



暫くの沈黙を破ったのは黒沼のなんとも言えない声だった



「へ?」

「え?」

「え?え?」

「え?」



いったい何をやってんだ!

コントじゃないっての!



「しょうやくんって……庄屋晃弘くんだったような……」










(苗字がややこしい名前を探すのに少し苦労しました(笑))
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