Door Of Crimson

□たからもの
2ページ/10ページ





分かっていた


自分の立場も

相手の立場も


自分は人魚
あの人は人間


違う摂理
違う時間
違う世界
違う理に生きるもの


分かっていた




でも
諦められなかった
諦めきれなかった


初めての恋
大好きになった初めての人だから


愛し方を知らなかった
だから
子供が玩具が欲しくって欲しくてたまらない
って泣きわめいて騒ぐみたいな





純粋な憧れ
恋心

そんなものだった




その日は嵐になった
貴方の乗っていた船は大きく揺れて
大きな波がかぶさるように船を包んで
人が投げ出されていく


やがてその船はバラバラになりながら沈んだ



貴方を助けるのは
人間の前に姿を現すことになるから

“いけないこと”だ


そんなことくらい
分かっていた




でも

何より
貴方に生きていて欲しかった
どんなことをしてでも
もう一度逢いたかった


夢中であなたを探した



稲妻が光った時
貴方の銀髪が見えた

気を失っていたけど
まだ息があった


泳げなかったみたいで
必死に水を叩いていて
可愛いところもある人なんだ


助けてあげられてよかった



王子様を抱きかかえて 砂浜まで泳ぎ切った

力仕事は苦手だし
体力は全くと言っていいほどなかった


でも

真っ暗な海の中
荒れ狂う波を切って泳ぎ続けた

途中で死体が
行く道を阻んだ
手をつかまれ
助けてくれと言われたこともあった


何もかも振り切って



自分はどうなってもいいから
この命その場で朽ち果てようとも
この人が助かってくれれば


この人は
陸につけてあげないと死んでしまう


この人だけは助けてみせる




生きている貴方に逢いたい

もう一度



その一心で


人間に見つかるかもしれないという恐怖を
捨てて泳ぎ続け陸についた


どうぞ
助かりますように



嵐が去って
砂浜に上げた時
貴方が声を上げた


かすかだったけど
初めて聞いた


低くて
耳に響く声


あぁ よかった


自分は またこの人に逢える
この人のことを 眺めていられる




そう思ったら嬉しかった





でも









次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ