Door Of Crimson
□たからもの
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分かっていた
自分の立場も
相手の立場も
自分は人魚
あの人は人間
違う摂理
違う時間
違う世界
違う理に生きるもの
分かっていた
でも
諦められなかった
諦めきれなかった
初めての恋
大好きになった初めての人だから
愛し方を知らなかった
だから
子供が玩具が欲しくって欲しくてたまらない
って泣きわめいて騒ぐみたいな
純粋な憧れ
恋心
そんなものだった
その日は嵐になった
貴方の乗っていた船は大きく揺れて
大きな波がかぶさるように船を包んで
人が投げ出されていく
やがてその船はバラバラになりながら沈んだ
貴方を助けるのは
人間の前に姿を現すことになるから
“いけないこと”だ
そんなことくらい
分かっていた
でも
何より
貴方に生きていて欲しかった
どんなことをしてでも
もう一度逢いたかった
夢中であなたを探した
稲妻が光った時
貴方の銀髪が見えた
気を失っていたけど
まだ息があった
泳げなかったみたいで
必死に水を叩いていて
可愛いところもある人なんだ
助けてあげられてよかった
王子様を抱きかかえて 砂浜まで泳ぎ切った
力仕事は苦手だし
体力は全くと言っていいほどなかった
でも
真っ暗な海の中
荒れ狂う波を切って泳ぎ続けた
途中で死体が
行く道を阻んだ
手をつかまれ
助けてくれと言われたこともあった
何もかも振り切って
自分はどうなってもいいから
この命その場で朽ち果てようとも
この人が助かってくれれば
この人は
陸につけてあげないと死んでしまう
この人だけは助けてみせる
生きている貴方に逢いたい
もう一度
その一心で
人間に見つかるかもしれないという恐怖を
捨てて泳ぎ続け陸についた
どうぞ
助かりますように
嵐が去って
砂浜に上げた時
貴方が声を上げた
かすかだったけど
初めて聞いた
低くて
耳に響く声
あぁ よかった
自分は またこの人に逢える
この人のことを 眺めていられる
そう思ったら嬉しかった
でも
、