相棒長編

□第4話スケープゴート
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 高橋正行が殺害されたというニュースは、警察関係者に大きな衝撃を与えた。何故なら、彼は15年前に起きた警察庁長官殺害事件の重要参考人として、公安部が追っていたからだ。当然、捜査権はすぐに公安部に移されてしまった。
「クソッ。公安の奴らめ。」
こういう事が大嫌いな伊丹は悪態をついたが、どうにもならなかった。
 その頃、特命係の2人もこの事件を追って鑑識へと来ていた。
「撲殺ですか。」
「ええ。しかし、凶器の特定にはいたりませんでした。後、犯行現場はここではない可能性が高いですね。」
「犯行現場を特定するような物は?」
「被害者の衣服から絨毯の繊維が検出されましたが、多く出回っているものでして…。絨毯が特定できれば、被害者の血痕が検出されるのでしょうが。」
「なるほど。」
「お力になるなくて、すみません。」
米沢は申し訳なさそうに言った。
「いいえ。それより神戸君、行きましょう。」
「はい。でも、どちらへ?」
 2人が向ったのは、15年前に殺害された富沢誠の妻、美知子の所だった。
「今日は何のお話でしょう?」
「高橋正行さんが殺害されたのはご存知ですね。」
「ええ。公安の方が追ってらっしゃったとか。」
「まあ、刑事部は別の人間を追っていたようですが。」
「けど、結局どちらも証拠不十分で起訴されず。無念ですわ。」
美知子の言葉が2人に重くのしかかる。
「そう言えば、もうすぐ時効でしたねえ。」
「ええ。それで、最近よく思うんです。誰かが事件の真相を隠そうとしているんじゃないかと。」
美知子の言葉に、2人は顔を見合わせた。
 特命係の小部屋に戻った2人は、15年前の事件を再度検証することにした。
「当初は、新興宗教団体スピリットに強硬な姿勢を見せていた警察に対する報復と判断。当時巡査で信者だった高橋が疑われ、自白。しかし、その後に否認か…。」
「ええ。そして、その直後に捜査一課は突如、別の殺人で逮捕された男の犯行と捜査方針を切り替えています。」
「何でまた…。」
「君は気が付きませんでしたか?」
「何にですか?」
「美知子さんの家にあった写真の何枚かに、美知子さんも含め共通のバッチを着けた人物が何人かいました。僕の記憶が正しければ、あれはスピリットの物です。」
「じゃあ、捜査一課が捜査方針を切り替えたのは…。」
「それを確かめてみましょう。」
右京は眼鏡フレームをキラリと光らせた。
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