相棒長編

□第1話標的
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 「よっ、暇か?」
そう言いながら、角田はいつものように自分のカップにコーヒーを入れる。
「暇ですよ。特に事件が起きたわけではありませんから。」
「いいねえ、暇で。」
神戸の言葉に角田は皮肉を言う。
「そんなに暇ならお願いがあるんだけど、いいかしら?」
「か、官房長!!」
警察庁の大物、小野田の突然の登場に、角田の声が裏返った。五課の他の連中は、何事だと興味津々だ。
「官房長。いつか言っている通り、用があるならそうおっしゃって頂ければ、こちらから伺いますから。」
さっきまで紅茶を飲んでいた右京が口を開く。
「相変わらず、朿のある言い方をするねえ、お前は。こちらからお願いするのに、相手を呼び出すなんてナンセンスでしょ。ねえ、神戸君。」
「えっ。まあ…。」
神戸は何となく気が付いていた、右京は小野田がわざわざここに来るのは、相手に断れないようにするためだと考えている事に。
「で、お願いとは何でしょう。」
「僕の友人が、命を狙われているって泣き付いてきてねえ。」
「命…ですか。」
「うん。脅迫状が来て、明日、彼の家で催されるパーティーでお前を殺す、って書いてあったみたい。」
「あのー、その友人というのは何方なんでしょう?」
「綾瀬竜一ですよ。」
「綾瀬…。」
その人物の名前を聞いた瞬間、神戸の顔が強張ったのを右京は見逃さなかった。
「綾瀬竜一って言ったら、昔からの財閥の当主じゃねえか。」
「お願いできるかしら?どうせ暇なんでしょ。」
「ええ。かまいませんよ。どうせ暇ですから。いいですよね、神戸君。」
「…。」
「神戸君。」
「えっ…あっ、はい。いいですよ。どうせ暇ですから。」
そう言って愛想のいい笑顔を見せるも、視線を反らすと険しい表情になる神戸を、右京はいぶがしげに見つめていた。
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