銀魂長編
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次に私達が話したのは、土方様が「あああ、あのッ、あの…」とぎこちなさを強調するように、どもりながら言葉をこぼした後だ。
太陽が茜色に染まり始めた頃、私に手渡されたのは桜の模様が入った櫛だった。
十)「…昨日の、簪……あれ、大切なヤツから貰った物だったんだろ?
…多分、すげー高価で、…つか、それよりも、大切な思い出で…
きっと、こんなん代わりにもならないし、償いきれねーけど、でも、…
受け取ってもらえたら、嬉しい…んだが、」
鬼の副長なんて姿はどこにも見当たらない、戸惑いながら言葉を大切に選んでくれている。
『土方様、……ありがとうございます。とても嬉しいです。』
何で単純に前を向けないのだろう、と悩んでいたクセに…。
意外と単純だった。あんなに悩んでいたのに…
単純に嬉しいと思った。私は、この人と居たら前を向けそうだ。
勝手だけれど、もしまたこの恋が実らなかったとしても、もう過去にはとらわれない。きっと。
良かった、とこぼしながら笑った彼が愛おしかった。
十)「でもよ、この間の簪俺に預けてくれねーか?直してくれそうなヤツ見つけたんだ。」
私は黙って首を横に振った。
十)「…そっか、そうだよな。手放したくないよな。」
私が執着することに驚いたのか、戸惑いながらも笑顔で言ってくださる。
『いえ、そうでは無いんです。お気持ちはありがたいのですが、あれはもう必要ありません。』
十)「でも、ずっと持ち歩いてただろーが。そんな大事なモン簡単に…」
『いいえ、もう捨てました。』
十)「はあ?!どこに、…」
実際、捨てられた、と言う方が正しいのだが…。
まだ、少し未練があるのか上手く笑えない。自然と、私の視線は川の方へ向いた。
十)「ここに投げたんだな??」
『……、もう必要ありませんから。』
『そろそろお店の時間なので、失礼いたします。土方様からいただいた櫛大切にしますね。』
私は土方様からの贈り物を胸に抱え、笑顔でお店に向かった。
お妙ちゃんにその事を話せば、「貢がせるなんて、悪い女ねー」なんて冗談を言われる。
『そんなんじゃないよ、…本当に嬉しい。』
妙)「……(本当に分かり易い子。)」
でも…、もしかしたら、これもいつか壊れてしまうのかな、なんて過る。
その時、私は、土方様の側に居るのだろうか…?
妙)「(土方さんもどういうつもりかしら、櫛を贈るなんて………。)」