銀魂長編

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その晩、私は夢を見た。








『晋助様、もう桜が咲いています。』

晋)「ああ、良かったな。」

晋助様は、私が毎年桜を楽しみにしていることをご存知だった。

『“世の中に、たえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし”という和歌がありますが、』


この歌は在原業平の歌で、世の中に桜が無かったのならば春はおだやかだろうに、という歌だ。


『私は、“散ればこそ いとど桜はめでたけれ 浮世に何か 久しかるべき”の方が好きです。』

晋)「何でだ、」

『確かに、少し名残惜しくて悲しいですけど、桜は散るからこそ美しい。私もそう思います。』

晋)「そうかァ、俺は“世の中に”のほうも好きだぜ?」

『では、晋助様は私が好きな桜が無ければ良いとお思いですか?』

晋)「いや、作者の在原業平はなァ、桜が好きだったんだ。
でも、きっと…満開になった喜びや、散るときの悲しさがあった。
桜が好きだからこそ、感情が変わる。それを忙しいと思ったから、
別に本気で桜が無ければいいなんて思っちゃいねェんだよ。」










桜、……もう、そんな季節か。







昔のことだ。





もちろん、和歌を教えてくれたのは晋助様だ。

“世の中に”のほうの和歌を、単純に桜を嫌う歌だと思い込んでいた私は、後者のほうが好きだった。


でも、あの瞬間、前者も好きになったのは、きっと、あなたが好きだと言ったから。






『(晋助様、…どうしてるかなァ、)』



同じように、桜の和歌を思い出したりしていないだろうか。


淡い期待をする。

いや、あの人は私のように幼い恋を引きずってなど居ないだろう。
というより、むしろ、私が一方的に好きだっただけかもしれない。

ただ、妹のように可愛がってくださっていただけなのかもしれない。




…最近、何だか悪い方向に考えてしまう。


こんなんじゃ、また銀さんに心配をかけてしまうだろう。



でも、あの人は覚えているだろうか…。


私が送ったあの歌を。









『散ればこそ、めでたき花と言ひければ たけき武者の道とも言ふべき…。』


















万)「晋助、いかがした?」

晋)「…いや、…桜の咲く頃だなァと思ってよォ、」

万)「この船からでは見えぬが、そうでござるな。」

晋)「ああ、」

万)「今日の晋助からは穏やかな音が聞こえる。」


晋)「…いい夢見ただけだ。」





―散ってこそ美しい桜と言うのならば、それは戦う武士たちの道、魂、心のようだ―



晋)「(お前はこの歌を俺に送ったが、…今の俺はそんな綺麗なモンじゃ無ェ。)」













儚いからこそ美しい、

今の俺はそういうのも嫌いじゃない。
















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