銀魂長編
□06
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また、あの頃の夢を見た。あの人が私に、誇りを忘れない強い女であれ、って言った時の夢。
あれ、強いって何だっけ…?
十)「らしく無ェな、」
『…私が、ですか?』
あれから数日して少し散歩をしていたら、偶然土方様に会った。
多分、最初に土方様は私に「祭の日、会えなかったな」と言ったんだ。
人との会話にも集中出来なくて、本当にボーっとしてるなって自覚はある。
『そうですね、差し入れ買ったんですけど、見つからなくて…。少し騒ぎがあったから、こちらには近づくなって…』
…近づくな、とあの人が言った。
十)「そうか、…浴衣姿見れなくて残念だ。万事屋のヤロー、俺に自慢してきて…。
…ッ、いや、別に羨ましくなんてねーぞ?!…うん、あ、今のはお前に失礼か…。」
あんな事があった直後だったから、出来れば会いたくなかったのだけれど…
会いたくないのならば、外に出なければいいのに、
私は反面誰かに「大丈夫」とでも言ってほしかった。
ああ、ズルいな私は。そう思って俯くと、土方様が「らしくない」と言ったのだ。
土方様は、この後にこう続けた。
いつもはニコニコ笑ってるお前が、らしく無ェ。
『…笑えてない、ですか。』
十)「ああ、俺には、お前がビビッてるように見えるな。」
煙草をくわえて、呆れたような表情をする。
気付いたら唐突にこんな言葉をこぼしていた。
『…強い、って何ですか…?何もかも壊せる力が強いって事ですか?』
十)「急にどうしたんだよ…。」
『分からなくなったんです…。守るって言ってくれたのに、強くなれって言ったのに、
その人は、…この世界を憎んでる。…もう私が知ってる彼じゃない、…それが怖い、』
どうして、…銀さんさえも背後から襲うことが出来るの…??
あなたは、どこまで変わってしまったの?
もう私が知っているあなたは欠片も残っていない?
ううん、じゃあ何で私にはあんなに優しい瞳を向けるの…?
十)「ちょっと落ち着け。」
『…ごめんなさい、何でも無い、んです。』
土方様は、そう言ってうつむく私を見て舌打ちをした。
その音にさえもビクビクしている弱い自分が嫌い。
嫌われたくない。これ以上何も言えない自分が嫌い。
十)「……、」
土方様は私の肩を抱いて、無理やり人が居ない場所へ連れて行った。
何度どこへ行くのか尋ねても答えてくれず、それどころか黙ったままだった。
人が居ない場所で、土方様は私の前に立った。
十)「…その、彼ってのは誰だ。」
『………。』
十)「ヤバイヤツなのか、」
『………。』
十)「俺に知られちゃァ、マズいヤツなのか?!」
『………。』
十)「俺は仕事に私情は持ち込ま無ェ。事によっちゃァ、お前をしょっぴくぞ。」
誰も、私に「大丈夫」とは言ってくれない。
この人に何を期待していたんだろう。
何も答えられない。
今、どちらも失うのが怖い私には…
『…ごめんなさい。』
私はそれだけ言って、逃げ出そうとした。
すぐに走ろうとするが、着物でそんなに走れるわけもなく、背を向けると同時に腕をつかまれる。
十)「逃げんのか、」
『ごめんなさい…。』
十)「俺には話せ無ェってか、」
『……、』
十)「お前、初めて会った時、俺に言ったよな。
“芯の強い女になれ、誇りを忘れない女であれ”って言った男が居るって。」
『はい、申し上げました。』
十)「その男なんだな、お前を悩ませてんのは。」
『………はい、』
十)「もう一度聞く。俺には話せ無ェのか。」
『………彼の名前を言う訳にはいきません。』
十)「つまり、ヤバいヤツなんだな?」
『………、』
十)「…本当は女だろうが、容赦なく拷問、ってのが俺なんだがなァ、」
恐れていた事態が起こってしまおうとしている。
拷問か、…今、心の揺らいでいる私に、彼の名前を出さない事が出来るのだろうか、