るろうに剣心長編

□貮話
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台所には、軽快な音が響いていた。



剣)「おはよう。」

『おはようございます、緋村さん。』


振り返って、挨拶をする。



剣)「早いでござるな、夕葉殿。」

『そうですね。目が覚めてしまって…。』



剣)「料理なら拙者が…。」

『いいですよ。これくらいやらないと…。ただで置いてもらってるんですから。』


私は、調理を再開する。



剣)「それは拙者も同じ…」



『緋村さんこそ、寝ててくださいよ。どうせ、まともに寝てないんでしょう??』


剣)「…何故、拙者が寝てない、と…??」



『言ったでしょう??私は、あなたの事を知っているんです。』


少し、困ったような笑いを見せる。

可愛いな…、なんて、こんな表情さえも愛しく見えるなんて…


私の想いが爆発する日は、そんなに遠くも無いのかもしれない。




『それだけじゃないですよ。あなたは、剣客でしょう?
剣客は、いつ狙われてもおかしくない…つまり、常に、
警戒しておかなければならないとなれば、当然、眠りも
浅くなるものでしょう。それくらいは、予想できます。』




剣)「……そうでござるな。」


剣心は、一瞬寂しそうな顔をして、微笑んだ。




『まあ、緋村さんの仕事がなくなりますから、
明日からは、緋村さんに家事は任せる事にしますよ。』


剣)「夕葉殿は??」


『何か、仕事を探します。1人居候が増えれば、それだけ苦しくなるでしょう。』


剣)「確かに…。」


『緋村さんは、家に居るだけですし。働く気も無いようですしね。』


剣)「(サクッ。)(刺さった…言葉が、刺さった…!!)」




『…それに、緋村さんは家に居ないと…。守るべき人が居るでしょう。』


剣)「そうでござったな…。」






剣)「やはり、拙者も手伝うでござる。」

『いいって、言ってるじゃないですか。邪魔です。』

剣)「そんな事言わずに…。」

『明日から頑張ってくだされば結構です。主夫業、頑張ってください。』

剣)「でも…」

『どうしても手伝うっていうんだったら、それ切ってください。もちろん、包丁で。』

剣)「拙者だって、人よりも、野菜を切るほうが得意でござる。」



冗談を言い合いながら、私達は並んで調理をした。

おかしな光景だが…私には、この状態が和やかで…
ずっと、こんな状態が続けばいいなんて夢みたいな事を思うほどでした。








左)「うっめー!!!」

薫)「朝からタダ飯食べに来て…」

左)「今日来るって約束したんだよ、夕葉と。」

『別に、約束してませんよ。この人が勝手に言っただけです。』



弥)「…に、してもうめーな!!」

『ホント??』

剣)「嘘なんかつかないでござるよ。」

『良かった。』

弥)「また作ってくれるよな??」

『…いいけど、明日からは緋村が作るよ。』

「「えーーー…」」


剣)「左之も、弥彦も酷いでござる…。」



左)「だってよー、ヤローよりも、可愛い嬢ちゃんの飯のほうが嬉しいだろーが。」

薫)「そういう事なら私がー…。」

「「絶対、駄目。」」

薫)「何でよー…」

弥)「おめー自分の料理食った事あるだろ??」

薫)「あるわよ!!何が不満なのよ!!」

左)「味。」

左之助と弥彦と薫さんが「ギャーギャー」騒ぐ。


さっきの、剣心と2人の時とは違う


剣)「…、夕葉殿??」

『何か。』

剣)「…嬉しそうでござる。」

『……みんなが、あまりにも美味しそうに食べてくれるから…嬉しくて…。』


剣)「…、」

剣心は、一瞬、呆けたような表情をする。


でも、それはすぐに微笑みに変わって、「そうでござるな。」と言った。





…幸せな一時。


でも、近づかないように。





『(ここに居たら、すぐに馴染んでしまいそうね…。)』



さよならが切なくなるから…

分かっていても、人間の気持ちは簡単にはコントロール出来るものじゃない。






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