その他短編

□夢で学ぶ古典2
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夕葉の父親は既に亡くなっていた。
彼女の身分が「更衣」であるのは、後ろ盾が居ないためでもあった。


彼女の母親は教養のある方だった。
“地球産”と呼ばれる中で、しっかりとした後ろ盾のある他の女御たちにもひけをとらないよう、彼女のために必死であった。

そのためあってか、夕葉は素晴らしい女性に育った。


しかし、やはりいざという時の後ろ盾は存在しないがために、夕葉は心細く思っていた。






ある日のことだ、

夕葉はまた体の様子がおかしいと思い始めた。


しかし、あんなに自分との再会を喜んでくれた。
あんなにも愛してくれて、大切にしてくださる…

そんな神威のことを思うと、また実家に帰るとも言えなかった。

『(地球に帰れば、楽だけど…でも、あなたに会えないのは苦しい。…なんて我侭ですよね、)』

地球に帰れば、しばらく神威に会えなくなる。
春雨も夕葉1人の都合のために船を動かす訳では無いので、地球付近で任務がある際に拾ってもらえることが幸運なほどであった。





神威に心配もかけたくないと思った彼女は、内緒で春雨の船の中に配属された医師に診てもらった。


『(また、治せないと言われたらどうしよう…。)』

春雨にはさまざまな場所からの医療技術がそろっている。
地球では不可能なものが治せることもある。


しかし、絶対に不可能なもの。

それは“心の病”であった。












しかし、思いのほか、答えは逆のものだった。




「ご懐妊です、」

と告げられた時の涙があふれるほどの喜びといったら無かった。




『(今すぐにでも神威様にお伝えしたい、)』

彼女の心が久々に高まる。







今夜も呼ばれて、神威のもとへ行く。

『神威様、…今日はお知らせがございます。』

また、帰るのか、と不安気な表情を見せる神威に向かって、彼女は微笑んだ。



『…懐妊だ、とお医者様に言われました。』


神)「本当に?!」


『はい、』


神威は素直に「嬉しい」と言ってくれた。





ただ、その反面、不安もあった。

神威は、既に一児の父親である。




その一児というのは、女御である女の子供である。
夜兎の血をひいているだけで無く、女御の父親は春雨の幹部、神威の上司でもあった。
しっかりとした後ろ盾のある彼女の子供は、既に将来が約束されている。
必ず、強くなる。そして、いずれは後継者として春雨の幹部になるであろう。









しかし、前世の宿縁が深かったのだろうか。
夕葉と神威の間には、世にまたとない清らかな玉のような息子までが生まれた。

実家でのお産から、神威はいつ会えるかと待ち遠しく思い、すぐに夕葉を連れ戻した。
夕葉とともにやってきた、息子を見て感動を隠せない。
希少この上ない容貌である、



神)「これが、…俺の子??」

目を見開いて、その子供を抱く。


『そうですよ、神威様と私のお子です。』

神威は、息子を側に居た女房と呼ばれる、夕葉の召使に預けると、夕葉を抱きしめた。




神)「ありがと、」

と何度も呟いた。






『神威様、私も幸せにございます。』








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