その他短編

□それはキャンディよりもパフェよりも。
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今日、私は失恋した。
…と言っても、そんなにショックは受けていない。





私が好きだった人は、この学校の中ではわりとまともな先生だ。
(この学校は基本的に先生も生徒も変人が多い。特に我がクラス3Zにはまともなヤツは一人も居ない。)


その人は、50過ぎたオジサンなのだが、何故がかっこ良かった。
白髪だったけど、ダンディな感じで、私にはかっこよく見えた。

その人を好きになったのは、ある話を聞いた時だ。

クラスの女子が、先生に「もっとかっこいいネクタイしなよー」などとキャピキャピ騒いでいた。

「奥さんに新しいの買ってもらえば?」
と世間的に言う、ギャルの子が言えば


先生は、「居ない」と答えた。


「え、独身?その歳で?ありえなーい。」

ただ、そのまま話を立ち聞きしてみれば、既に亡くなっているのだという。


私が分からない問題があって、質問した時に、先生は優しく笑っていた。
先生は、私に「これは思い出の問題だ」と話してくれた。

同じような傾向の問題を、亡くなった奥さんが高校の時に聞いてきて、教えてあげたのだという。
そして、その時に一緒に受けた大学入試でその問題が出たのだ、と。もちろん2人とも合格したと教えてくれた。



私は、先生は、まだその亡くなった奥さんが好きなんだろう、と勝手な推測をした。

そして、そんな先生を素敵だと思った。







その先生が、最近髪を黒く染めた。

そして、今日、再婚したという噂を聞いた。





恋、という訳では無いが、少しショックだった。

失恋にも似た感情のように思えた。




何気なく、屋上で夕焼け空を眺めていたら、担任が来た。


銀八先生に、「何やってんの。」と聞かれて、『特に何も』と答える。

先生は、タバコ(本人曰くレロレロキャンディー)をくわえたまま、「ふーん、あ、そ。」と素っ気無い返事をする。


『銀八先生が聞いたんじゃないですか。』

銀)「まァねー。つか、寒くね?失恋には、あったかい飲み物だ。ホットミルクかココアぐれェなら出してやるよ。」

銀八先生は付いて来い、とでも言うように背を向ける。

何だかんだで優しい銀八先生と一緒に国語研究室に向かった。



銀)「どーぞ。」

『失礼します、』と遠慮がちに入ると、「そんなよそよそしくしねーでいいじゃねーか」と銀八に言われた。



「ほらよ。」と国語研究室のレンジで暖めたホットミルクを渡される。

素直にお礼を言って、冷めるのを待っていた。

私は猫舌なので、飲むのに時間がかかったが、全部飲み終わってご馳走様と言ったら、銀八先生がふと呟いた。







銀)「…なァ、俺にしねー?」

何のことだか理解できず無言の私に、

「だからー、」と再び同じ言葉を繰り返す。





銀)「失恋したんだろ?」

『何で知ってるんですか?』

銀)「そんなん、お前見てたら、あの先生のこと好きなのバレバレだし。」


私、そんな分かりやすかったのか。


銀)「あの人再婚したじゃん、あーあ、夕葉は失恋だなァ、って。」

『先生、口元緩んでるんですが。』

この人は何だ、人の不幸を喜んでいるのか。
ドS?沖田総悟並のドS??


銀)「そりゃ喜びもしますー。俺にチャンス到来したんだし。」

『チャンスって何の?』

銀)「だから、俺にしとけって。…お前の好きなヤツ。」





『…銀八先生とあの人じゃあ、180度くらい逆なんですが。』

銀八先生はどちらかというと不真面目でけだるそうで、

あの人は、真面目で、一生懸命で、時に厳しくて、


『例えるなら、激辛煎餅とチョコパフェくらい違いますよ。』







銀)「いいんじゃね?これからは甘党に乗り換えれば。」






私が、少し悩んで『それも考える余地はあるかも』と小さく呟いた瞬間に、

唇に甘い香りが残った。



銀)「ごちそーさん。」







それはキャンディよりもパフェよりも、
(甘い、甘い、初めてのキスでした。)
























 

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