その他短編

□汚れた手
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その手に触れて…。

手を繋いで、その頬に触れて、顔を近づけて…
唇で繋がる事が出来たならば、私は何もいらなかった。




『…あ、沖田さん。』

総)「また来てしまいました。」


私は、ここで働く甘味屋の娘。

最近、京都にやってきた壬生の浪士さんは、よくこの甘味屋にやってくる。



「夕葉ちゃん、最近、よぉ働くなぁ。」

総)「それって、前はあんまり働いてなかったんですか??」

『前からちゃんと働いてます!!』



総)「あら、怒りました??」

『怒ってないですけど…ちゃんと真面目に働いてます。』

総)「分かりましたよー。」


「ちゃうよー。よぉ働くようになったんは、嫌々やのーて、
嬉しそうに仕事されるよーになったなーちゅう事よ。」


総)「なーんだ、そういう事ですか。」

『何で残念そうなんですか!!』

総)「だぁって、おもしろく無いじゃないですかーw」

『おもしろいって、ネタにしようとしたんですか?!』


総)「ダメなんですかー??」

『ダメです!!』



この人が居る甘味屋は、とても騒がしくなる。
…といっても、この人が騒がしい訳ではなく、
いつもいつもこの人が私をからかうので、実際
うるさく騒いでいるのは、私という事になるのだが…





『沖田さんは、もー…』

総)「あなたと居ると、本当に楽しいですヨ。」

『あなたが言う事は半分くらい冗談ですからね。』

総)「いえ、9割くらい冗談ですネ。」

『9割…?!ほとんど信用できないじゃないですかー…』



ただ、この時間が嫌いではなかった。むしろ、大好きだ。

この人が通ってくれる事が嬉しかった。




この時間が…この人が…私は大好きだった。


私がここで嫌々働かなくなった理由も、この沖田総司にあった。


この人が通ってくるから、常にお店に居る。

この人が通ってくるから、自然と笑顔になる。





ただの甘味屋の娘と、ただの浪士なら、このまま…

私はただの恋愛をしていただろう。








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