その他短編

□いつもの笑顔で、
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『先生、お久しぶりです。』

沖田先生は、痩せていて、胸が締め付けられた。
ただ、彼の笑顔は昔と変わらないものだった。

その笑顔は、昔と同じ暖かさを感じさせ、締め付ける胸を緩めるには充分なものであった。



総)「会いたかったですよ。」

側に座った私を、そっと暖かく包み込んだ沖田先生は、自分の知っている彼では無かった。


『…先生、…また、冗談ですか??』

腕の中から、先生を見てみればまた笑って、「さぁ。」なんて言った。


総)「んー…冗談かもしれませんね。」





何かやっては「冗談ですよ。」と言うのが彼の口癖だった。

そして、それに「もう…。」なんて返すのが私の口癖だった。



『もー、沖田先生は変わらないですね。』


ただ、今までと同じ、「昔と変わらない」ままでは居られなかったのだ。

彼は、前よりもずっとやつれて、痩せていた。
彼もそれを自覚しているためか、少し寂しそうな表情をした事を見逃さなかった。



土方副長は「このままじゃ、総司は…皮と骨になっちまう…。」
なんて言った事は、今、彼を前にして冗談なんかでは無いと痛感できる。



『沖田先生、…いいんですか??』

総)「はい、…もう、僕は選択さえも出来ません。」




『土方副長や近藤局長と一緒ではなく、私と…』

沖田先生は、笑って頷いた。


総)「よろしくお願いします。」

その笑顔は、先ほどとは違い、何故か寂しさを誘うものだった。





総)「さ、江戸へ行く準備を手伝ってください。」

『え、私がやるんですか??』

総)「僕、病人なんですけど…」

『病人だからって、何でもやってもらえると思ったら大間違いですよ。』


総)「わー…僕、こんな人にお世話頼んじゃって大丈夫かなァ…」

『………。』

膝には布団をかけたまま、沖田先生はいたずらっぽい笑顔を見せる。
シラーとしたような表情で沖田先生をジッと見れば、やはりあの言葉が返って来る。


総)「冗談ですよ。」


沖田先生は、実は世話係を選んだのは自分だと話した。

総)「試衛館でお手伝いをしてくださっていた時にも、1番気が利くのは夕葉でしたからね。…僕がお願いしたんです。」

その言葉は嬉しいのだが、私は素直に喜べず、疑うように彼に言った。


『私、先生が冗談じゃない事言ってるの、ほとんど見た事無いんですが…。』


総)「疑ってるんですか??」

『だって、先生はいつも「冗談」って言うじゃないですか。』

総)「たまには本気の事も言います。」

『じゃあ、ほとんどは冗談なんですね。』

総)「ほとんどは冗談です。」



いつもの沖田先生。

私達は噴出して、思いっきり笑った。



私、こんなに笑ったのは久しぶりだ。



試衛館時代は、みんなで馬鹿みたいに笑っていたものだ。

今はもう居ない、藤堂平助や山南敬助の顔が浮かんで、少し寂しくなった。


でも、沖田先生が居る。目の前に、…もう会えないかもしれないと思った彼が居る。


試衛館時代だって、1番私を笑わせてくれるのは彼だった。



中々笑いは止まらなくて、その声を聞いた近藤局長と土方副長は少し安心したようだった。


勇)「こんな楽しそうな総司の笑い声、久々に聞いた。…なあ、歳。」

歳)「…大丈夫、かもしれねーな。」



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