その他短編

□青空と月―前編―
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『宗次郎は、青空みたい…。』





ふと、彼女が呟いた言葉だった。


このアジトの中で、唯一、星空を見る事が出来る場所がある。

夜、彼女は決まって、その場所に居る。


星が瞬く夜空の下で、彼女が言った。
僕が、青空である、…と。



宗)「それって、僕がいつも着ている着物の色だからじゃないんですか??」
なんて、冗談を言えば、彼女も笑ってくれた。


『そうかもしれないけど…。…でも、宗次郎のイメージなの。』



そう言って、再び視線を星空に移せば、月の側には青く輝く星があった。



『…死んだら、星になるなんて、…馬鹿みたい…。』

そう言った彼女の声は震えていた。


でも、信じているんでしょう??

あなたの目が、「でも、あれが彼のような気がする」と語っています。



月の側にある、青く輝く星。



…だとしたら、あなたは、月ですね。




宗)「じゃあ…夕葉さんは、月みたいですね。」

『月なんて、大きなものにはなれないよ。』


宗)「いいえ、…月ですよ。あなたのイメージは…月です。」


彼女は苦笑して、それ以上は何も言わなかった。




あなたは月ですよ。

月は夜も昼にも現れるじゃないですか。
あなたは今、この世界と、あの世界、どちらにも存在するんです。
その人を思い続ける限り…ね。



あなたは、夜空でなら輝いているんでしょう。
きっと、あなたが思う人の前なら輝く笑顔を見せるんです。


どうして太陽になってくれないんですか??

月のままじゃ、いつまでも沈まないじゃないですか。
あなたの心は、夜空に奪われたままじゃないですか。
あなたは、ずっとあの人の事を思い続けるじゃないですか。


夜空では輝いて、人々を照らす月でも…

青空では白く霞んで、人々には見えないんですよ。





だから、僕が青空ならば、あなたは太陽になってください。



そうすれば、僕の元で輝いてくれるでしょう??


だから、あなたは…太陽になってください。












青空と月。






あなたの側に僕が居て、僕の側にあなたが居る。

でも、僕達は未だに、青空と太陽にはなれないんです。

まだ、僕が青空で、あなたは月のまま…夜空に浮かぶ、月のまま…。










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