その他短編

□青空と月―中編―
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月日は経ち…


『宗次郎。』

宗)「何ですか??」


私は、そこに蒼い着物を出す。

「出来たんだ。」と宗次郎が微笑んで、それをそのまま上に羽織った。

『どうかな…??』

宗)「うん、調度いいみたいです。」


宗次郎がいつもの笑顔を見せて、私は安堵する。



宗)「夕葉はいいお嫁さんになりますね。」
なんて、冗談まで言って、いつもの調子の宗次郎。


明治8年。私と宗次郎は、13歳。


宗次郎は「夕葉は器用だなー」なんて言いながら、自分の着物を見ている。


私は、初めて宗次郎のために着物を縫った。




私が、人生で二度目…人のために縫った着物だった。
もちろん、初めて縫ったのは、彼の着物だ。

『沖田先生。』

自分が縫ったと言いながら見せた着物を、沖田先生は驚いた表情をして見た。

『大きさは大丈夫だと思うんですけど…』

総)「もしかして、僕の…??」

私は、照れながら、頷いた。

総)「夕葉は器用だなー。」
沖田先生は、着物を羽織って、笑ってくれた。

『…あ、でも、少し大きかったですねー…』

沖田先生の前の着物の寸法を計って調度いいと思ったのだが…
沖田先生は苦笑していた。

ああ…そっか。沖田先生…痩せたんだ。病気のせいで。

『キツかったら着てもらえないと思って、少し大きめに作ったのがダメだったみたい。』
と、冗談っぽく言って笑えば、沖田先生は私の頭に手を伸ばし、

総)「初作品としては上出来です。充分すぎるくらいに。」
と言ってくださったのを、覚えている。





『……、』

私は、そっと宗次郎を見つめる。

『(似てる…。)』

宗次郎とであって、2年。私と宗次郎の距離は縮まっていると思う。

でも、私の中であの人は消えないし、消そうと思った事も無かった。

宗次郎の笑顔とか、優しいところとか…時に、残酷な部分さえも先生と似てる。


重ねて見てるなんて知ったら、彼はどう思うんだろうか…。



『…気に入った??』

宗)「はい、とても。」



宗次郎は、すぐに志々雄さんと由美さんに自慢しに行った。


志)「夕葉、上手いじゃねーか。」

私は、そう言われると必要とされている暖かさで満たされた。

宗)「志々雄さんにはあげませんよ。」←

志)「入らねーよ。」←



志)「おい、夕葉、今度、俺にも…」

『志々雄さんには由美さんが居るじゃないですかー。』



『私は、“宗次郎の女”ですから。』

宗次郎の腕に絡む。

志々雄さんは「そうだったな。」とか言いながら笑った。

志)「でも、由美はあんま裁縫得意じゃねーんだよな…」

『(…うん、出来そうに無いね。)』←


考えこむように、自分の顎に手を当てている志々雄さんに、宗次郎は言った。


宗)「じゃあ、僕の前の着物あげます。」←

志)「お下がりかよ。つか入らねーって。」←


私は、こんな日々がずっと続く事を願っていた。




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