その他短編

□青空と月―後編―
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『………。』

宗次郎は私の手を引き、少し速く歩いた。





一)「夕葉、俺達と来るか??」

斎藤さんの声が脳裏に蘇る。



『…どうして、今更…。』
そう言いながら、私は首を縦にも横にも振る事が出来なかった。

宗)「えー、待ってくださいよ。夕葉は僕の事が好きなんです。」

あの時、宗次郎が私を抱き寄せてくれなかったら、私はどちらの手もとる事が出来なかった。

宗)「おじさんには夕葉はあげられませんよ。」

なんて冗談を言って、宗次郎は私の手を引いた。


一)「…そうか。しかし、そいつの目には迷いがある。」

背を向けた私と宗次郎に向かって斎藤さんが言葉を放つ。

一)「お前の心にはまだ、沖田君が居る。」

私も宗次郎も、それには何も言い返す事が出来なかった。

宗)「夕葉…。」

宗次郎の不安そうな顔。

『…行こう。宗次郎。』


一)「まあいい。今ここですぐに決められる事でも無いだろう。
また京都で会うときには、返事を聞かせてもらうぞ。」


斎藤さんは笑った。

『(何だか、見透かされてるみたい…。)』




『宗次郎…、ごめんね…。』

宗)「何がです??」

『…だって、………。』

…私、迷ってたから…。すぐに宗次郎と行くって答えれなかった。


宗)「…いいじゃないですか。結果、ここに居るんですから。」

『…うん。』

宗次郎の隣が安心する。
私は、今度斎藤さんに誘われても、この人の側を離れられない…。

そんな気がした。



『宗次郎、ありがと。』

宗次郎をそっと抱きしめる。



宗)「どうしたんです??急に…。」

『ありがとう。…そう思ったから…。』


宗次郎は、それ以上は何も聞かなかった。


…ありがとう。

あの時、私を必要としてくれて…。


宗)「ほら、志々雄さんにホントに追いつかなくなりますよ。」





『宗次郎、…大好き。』


宗)「僕も、大好きです。」


そう言ってくれるあなたが居るから、私は…

私は、ここに存在する意義がある。



宗)「…にしても、夕葉からそんな事言ってくれたのは初めてですね。」

『そうだっけ…??』

宗)「はい。…すごく嬉しいです。そんなに寂しかったですか??」

『うん、寂しかった…。』


宗)「大丈夫ですよ。僕は、急に消えたりしませんから…。」

“僕は”…それは、沖田先生の事を思って言ってるの…??


『うん。…側に居てね。』



もう、誰も目の前で失いたくないの…。






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