御題小説
□たとえば僕が:「ただ大好きだというだけで」
2ページ/2ページ
俺は、弱くなったんだろうネ。
だって、殺せないんだヨ。
こんなにも憎い男を…殺すことが出来ないんだ…。
威)「夕葉を迎えに来ただけ…。殺すなんて一言も言ってないヨ?俺、楽しみは後にとっておく方なんだ。」
眠る夕葉をそのまま抱き上げる。
今日は、銀ちゃんのところに泊まる、なんて言ってたけど…俺のほうが君の居ない生活に耐えられそうに無いから…。
たった、1日でも…。
いや、半日でも、無理みたいだ。
春雨に戻ってから、夕葉が目を覚ます。
俺が、「目ェ覚めたみたいだネ」と微笑むと、彼女の口からは「何で?」という言葉が出てきた。
威)「え…??」
『今日は、泊まるって言ったのに…』
威)「俺が耐えられなかったから連れて帰った。」
『それにしても…私、銀ちゃんや神楽ちゃんにお別れ言ってない…。』
威)「いいじゃん、また会えるんだし。」
『次はまたいつ会えるかわかんないのに…。』
そんな君を見て、俺の指が震え始める。
怖い、…
怖いよ…
何だよ、この感情…
こんな感情、
俺…知らない…
耐え切れなくて、俺は夕葉を抱きしめた。
『神威…??』
威)「…怖い、」
『神威…??どうしたの…??震えてるよ…??』
威)「夕葉、…分かんないヨ。俺…どうして震えてるのか…
どうして、こんな気持ちになるのかも分かんないんだ。」
夕葉が俺の背中に腕をまわす。
その暖かい手に、少し安心した。
威)「嫉妬して、相手を殺したくなって…」
威)「…でも、殺せないんだ。夕葉は夜兎のクセに優しすぎるんだ…
だから、俺が殺したなんて知ったら、夕葉は傷ついて、
そして、自分を責めて、泣いて、泣いて…泣き続けて……だから、」
―殺せなかったんだ…。
『うん、分かった…ありがとう。』
そう言った、彼女の声が優しい。
俺は弱くなったネ。こんなんじゃあ、最強になんかなれないや。
でも、それでも…
『…私が、この世で神威しか知らなかったら、こんなに神威を傷つけることなんて無かったのに…。』
『何も知らない間に、神威にだけ出会えたらよかった…。』
そうつぶやく、君の声が俺の心を満たしていくんだ…。
―ただ大好きというだけで、―
こんなにも世界が変わる。