御題小説
□確かに恋だった:「微裏な5題」
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『宗ちゃん、ごめんねー。』
宗)「別に気にしてませんよ。」
夕葉さんは手を合わせ、僕に謝った。
気にしてない。…というか、むしろ嬉しい、というのが、僕の本心だった。
彼女は、さっきから見ていても分かるように、コロコロと表情が変わる。
どんな事があっても、笑ってる僕とは違って…
こんな単純な彼女だから、十本刀からはよくイジ(め)られてる。
宇水さんをはじめ、鎌足さんも相当からからかってるし…
やっぱ、1番遊んでるのは張さんあたりだろうか…。
僕と同い年くらいの、彼女を志々雄さんが突然拾ってきた。
由美さんは、彼女を娘や妹みたいに扱っている。
鎌足さんとは「恋バナ」というやつで、よく盛り上がってる。
(そして、いつも志々雄さんに「うるさい」と怒られる。)
無邪気で、可愛くて、愛しくて…
僕にとっても、何というか…妹みたいな存在だった。
宗)「(でも、何でだろう…??)」
志々雄さんが、彼女を連れてきた意味が、未だに理解できない。
別に強くなさそうだし…。(見た事無いけど)
志々雄さんには由美さんが居るし…。
(志々雄さんの事だから、2人目??)
…でも、そんな様子無いし。
いっつも言いたい事言ってる夕葉さんには絶対勤まらないと思う。←
志々雄さんの好みじゃないと思うしなー…
宗)「(ま、いいか…。)」
今は、彼女が近くに居るだけでいいって思っていた。
この時までは…。
志)「…おい、夕葉。」
『はい、何ですか??』
いつものあどけない表情で返す夕葉だったが、
志)「…今夜、俺の部屋に来い。」
と言われた瞬間に、少ししおれるような表情に見えた。
『はーい、わかりましたー』
一瞬だけ…すぐに彼女の表情は、いつもの笑顔に変わる。
宗)「(やっぱ、そういう事なんだろうな…。)」
由美さんの表情を窺えば、悲しそうにしていた。
僕の心が痛む。何だろう…??
笑ってるけど、笑っていられないような…
ずきずきと痛むような…苦しくて…イライラする…。
宗)「何で…??」
その日の夜に、夕葉が僕の部屋を叩く。
宗)「どうぞ。」
『宗ちゃん、…志々雄さんの部屋まで連れて行って??』
と言った、夕葉を見て…僕の中の何かが途切れた。
『宗ちゃ…ふ、ン……??』
唇を奪って、彼女の腕をつかみ、ベッドに投げた。
『そ、宗…』
と起き上がった夕葉さんの両腕をつかむと、再び体を倒す。
『宗ちゃ…やめ、…』
宗)「いいじゃないですか。どうせ、これから…
志々雄さんにも、同じような事されるんでしょ…??」
『ち、違っ…』
宗)「何が違うんですか…??」
僕は、彼女の首筋に口付ける。
『ッ―…』
チクリと痛みを感じた後に、ほのかに赤い跡が残る。
夕葉は何も言わずに僕を突き飛ばして、そのままバタバタと部屋を出て行った。
宗)「………。」
僕はただ、追いかける事も出来ず…
自分の唇に触れた。
―それは初めての感触―
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