御題小説

□確かに恋だった:「君が好きだった」
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ある日、巡察中に君を見つけた。

声をかけようと思って、やめた。





君は僕では無い男の人と楽しそうに喋っていたから。







遠かったから、手を振ろうと思った。

その少し挙がった手が、行き場をなくしたように、脱力して落ちていく。











「(新撰組失格だなぁ、)」



刀に手をかけるどころか、物申すことさえも出来ない。






君と喋っているのは、変装はしているけれど、坂本竜馬だ。


要注意人物である彼を、ただ見ているだけなんて…



(君さえ居なければ、)





「…敵同士、」



坂本竜馬と敵同士。



そしてきっと、君も…。













「沖田隊長、」


「あ、何…?」



「いや、珍しくどこかを見つめているように見えたので…。」


隊員である部下の一人が「怪しい浪士でも居ましたか?」と僕に尋ねる。





何でも無いという答えが出かけたが、



「あの、甘味処のお団子美味しそうだなって、」

と言い訳をした。


その方が「何でも無い」よりもずっと、僕らしいと思ったから。



「…今から行くはなしですよ。」

「アハハ、サボったりしませんよー。」


部下が半ば呆れたように言って、冗談だというように僕が笑う。




「じゃあ、非番の時に行ってくださいね。」





「そんな釘を刺さなくっても…」










いつも通り、冗談を言っているだけなのに…



何でだろう、上手く笑えない…。









(君さえ居なければ、)







「(敵、か…。)」



と思いつつ、君が居る場所に背を向けた。







―無謀と知っても、君が好きだった―








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