平安恋歌

□肆話
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「まず、お願いだ。名前…。」

名前と呟いた光の君は辛そうな顔で笑う。
『そんな…無理して笑わないでください。私に出来る事なら、お願いなんて何でも聞きますから…。』


「うん…でも、君には酷かもしれない…からね…。」

スウッと1度息を吸うと光の君は
真っ直ぐと正面を向き、
笑顔ではなく、真剣な顔をする。


「名前なんだ…。夕葉という名前を変えてほしい。」

『えっ…。』
意外な条件だった…。
名前を変える。
それは、思った以上にショックが大きい事なのだ。
親からもらった大切な名前…
今まで読んできてもらった名前を…
住む場所が変わっただけで変えてしまうなんて…
という思い。
けれど、その条件を呑まなければ…
私はここに居られないのかもしれない。

『は…
私は決意して“はい”と返事をしようとしたとき。

光の君は口を開いた。

「だって…夕葉って名前は、記憶喪失になって、どこか、自分が誰かなのかも分からなかった中で、唯一覚えていた事だろう…?そう思うと…俺は、酷だと思ったんだよ…。」

光の君は下を向いたまま、そう呟くように…
一言一言…言った。

私は、こんなに優しい人に嘘を言った。


『(罪悪感が…;)』

心が痛い。


『大丈夫ですよ。』
そう、笑顔で言う事。
彼を困らせないように頑張る事だけが…
唯一できる事のような気がした…。

私は笑顔を作る。
『大丈夫です。何て名前がいいですかね?…そうですよねぇ〜。何か考えないと…。』

この時代、夕葉なんて名前は変だ。
でも、どんな名前がいい?

『光の君、考えてください。』

光の君は、また寂しそうに笑うのだった。






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