黒猫が泣く

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またこの家に似合わないパソコンが赤く光る。
「今度は女子校か、…」と一目連が呟いて、一目連と骨女が先生として、私が生徒として潜入することを決める。
「アンタ、大丈夫なのかい??窓際の机でいつも寝てるだろ。」
「注意する俺達の身にもなれよ。」
「だってポカポカして気持ちいいんだもん…。」
二人から視線をそらすと、二人は互いに顔を見合わせてから、ため息を吐く。
「頑張るから、そんな顔しないでよー…。」
と言っても、一度では信じてもらえず、本当だね?と骨女に確認されて、ゔッ…と引き気味で再び「大丈夫。コントロールするから。」と決意を固めたのだった。


自然とあくびが出る。元々居た設定で潜入はするものの、新しく机を置くと大抵窓際の一番後ろの席を割り当てられる。
この席はどこの学校でもやわらかな太陽の光があたって眠くなるのだ。
「(これで寝るなって言う方が可笑しいと思うんだよね、)」
授業を真剣に受けるターゲットの甲斐田さんに視線を向ける。
学校に潜入してすぐに、今回はいい気分で終われる仕事じゃないな、と思った。まあ、地獄に落として嬉しかった、なんて仕事は無いんだけれど、やっぱり心苦しい時はある。
そんな時は皆、「嫌だな」と呟きながらも淡々と仕事をこなす。「今までだって、こういうことはあった。それでも乗り越えてきた。」って言って、互いと自分に言い聞かせるんだ。
ターゲットは放送部部長の女の子。長い髪をハーフアップにまとめているのが大人っぽい。それ程派手では無く、むしろクラスではおとなしい部類だ。優しそうな子で、彼女の友達や後輩に聞けば「憧れるくらい素敵な人だ」と答える。見学させてもらうと、後輩に厳しい指導をしていた。でも、それは正論で、後輩を想っての発言であることは分かったし、後輩たちも自覚しているはずだ。
今回の依頼者も放送部のはずだが、この1週間来る様子は無かった。糸を引く様子も無く、この潜入捜査がムダに終わって欲しいとさえ思った。
「ね、鈴宮さんって来てないの?彼女も放送部って聞いたんだけど、」
後輩の一人に聞くと、「あー…」と納得できる理由があることを顕にする。
事情を聞けば、放送部にも大会があり、いくつかある部門の中で女子個人があるらしい。その部門に出られるのは各校1人。その校内オーディションで依頼者の鈴宮は負け、選ばれたのがターゲットである甲斐田なのだ。
「先生が甲斐田先輩のこと絶賛してて。それに鈴宮先輩、緊張して実力出し切れてなかったみたいで。多分、悔しかったと思います。それに、先生がここで緊張するようでは本番はもっと上手くいかないに決まってる、なんて吐き捨てるように言ったものだから…。」
嫉妬だな、甲斐田さんは誰からも慕われている。先生も絶賛。一方、自分は先生に酷いこと言われて。…まあ、それも正論だけど。
「そっか、それは落ち込むよね。」
「私、鈴宮先輩の声すごく好きです。明るくて、いつも元気をもらえるような。甲斐田先輩とは違う魅力なんです。」
後輩からそんな言葉を添えられて、「うん、私もそう思うよ。私からも言っておくね。」と言えば、その子は嬉しそうに感謝を述べた。
「じゃあ、杏子先輩、涼宮先輩に伝言お願いしますね!」
「うん」と私も笑顔を向けて手を振る。
鈴宮さん、明るいキャラで通ってるからこそ、自分の闇を誰にも見せられなかったんだろうな…。
推測をしながら、約束の生物室へと急ぐ。

「………と、まァ調査結果はこんな感じです。」
「逆恨み、って所だね。」
思っていた通りだ、と皆がため息をつけば、いつも通り誰かが「でも、情に流されちゃいけない」と言った。
「分かってるよ、」
一目連が「にしても、よく調べたな。」と私の頭を撫でる。
教師は突然顧問になれないけど、生徒ならすぐに入部希望出せるし。友達になって色んなこと聞けるし。
「こういう時、先生よりも生徒の方が動きやすいんですよー。てことで、保健室で休んでいいですか?」
「どういう流れでそうなるのか分からないんだが、仕方ない。寝ていいよ。」
「やった!」
私は現在保険医である一目連から、保健室で寝る権利を勝ち取った。
「一目連は何だかんだで、夕葉に甘いんだから。」
「一目連好きー。」
「はいはい、今は石元先生な。」
調子に乗って抱き付く私の頭を一目連は優しく撫でる。多分、私にとって一目連は特別だ。
それは出会って最初に「綺麗な眼」って言ってくれたから、というのもあるが…。
多分、道具としてずっと人間の側に居た彼と、動物の姿で人間を見て来た私と、探している物が似ているのだ。
私は既に、ここで居場所を見つけた。欲しかった何かは手に入れたと思っている。

「石元先生、膝枕してください。」
「先生は生徒にそんなサービスしません。」
「どうせ先生暇なんでしょ?」
「暇ではありません、今から依頼者の家を覗いて来ます。」
わざと「わー、やらしい」なんて言えば、分かってるだろ?これは俺しか出来ないんだから、と諭される。
「それにしても、先生、私を夜の学校に置いて行く気だったの?酷い、」
「お前、妖怪なんだから夜の学校とか怖くないだろ。」
夜の学校は別に怖くないけれど、1人置いて行かれるのは嫌だった。
「そんな残念そうな顔すんなよ、迎えに来てやるから。な?」
そう言って笑う彼に、「いい、寝ない。一緒に行く。」と引っ付いた。呆れたように笑い、白衣からいつも通りの服になる。そのまま依頼者の家の側まで言って、一目蓮の様子を側で見ていた。
涼宮さんは、本当は甲斐田さんが悪い訳じゃないって分かっているんだと思う。でも、今の悔しい気持ちをどこに持って行って良いのか分からないんだろう。だから、「アイツが悪いのよ」って言いながら、糸を引けないまま涙を流すのだ。
一目連と私は顔を見合わせたけれど、何も言えなかった。余計な事はするな、って言われたけれど…。






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