黒猫が泣く

□02
2ページ/2ページ




翌日、私は涼宮さんに後輩の女の子が言っていた甲斐田さんとは違う魅力について話した。
「…だから、部活行ってみたら?」
涼宮さんは、最初は「あなたに何が分かるの?」って気持ちをぶつけてきた。
「その気持ちを1人で抱え込んでいるから、モヤモヤしてるんだよ。正直に悔しかったって、誰かに話してみたらいいと思う。今、私に言ってくれたみたいに。…無理はしなくて、いい、と思うけど。もし部活の子たちに言えないなら、保健室の先生とか!…誰かに言わなきゃ苦しいままだよ。」
私は一体何がしたいのだろう、と思いながら。いつの間にか勝手に、友達のような気分になってた。
独りじゃなくなって、しばらく経っていたから調子に乗っていたのかもしれない。
「ちょいと、何説得してんのさ。」
「あ、曽根先生……、」
様子を見ていた曽根先生こと骨女はため息をつく。
「理不尽な地獄流しを止めるのは、あたしらの仕事じゃないよ。」
別に止めたかった訳じゃない。けれど、友達だったら、こう言うんだろうな…って思っただけ。
ここで、友達?と自分の中で反復する。ああ、そうか。最近、あの子のことよく見てたから、そんな気がしているだけで、あの子は私のこと別に友達なんて思ってないよね…。少し寂しくなって、「ただの気まぐれ」と答えた。
「しかも、俺まで巻き込んで…」とクラスにひょっこり顔を出す一目連。
「いち…じゃない、石元先生。…ごめんなさい、」
「一目連には素直じゃないかい、」
すると、クラスの女の子たちが「えー、石元先生どうしたんですか?」と黄色い歓声と共に集まる。
「ああ、…ただ、明日奈さんが昨日体調悪いようだったから様子を見に来たんだ。」
女の子たちが「えー、私も体調崩したいー」「保健室行ってもいいですかぁ?」なんて言い始める。
多少睨まれた気がする。一目連だって私のこと巻き込んでるじゃない、と少し不満に思いながら。
「保健室は満員御礼って訳にいかないからな、仮病は禁止。じゃあ、皆授業頑張ってね。」
と、笑顔を残して去って行った。教室では「あー、先生かっこいい!」なんて言っている子ばかり。
私はため息をこらえながら、自分の席についた。涼宮さんに保健医を勧めたのは失敗だったな、…それこそ恨まれそう。

放課後、涼宮さんは「部活行ってみる」と言った。保健室の先生は、少し近寄りがたいから遠慮すると添えて。
「うん、頑張って。」と言えば、小さく「ありがと」と返ってきた。本当はこんな事考えちゃダメなんだけど、このまま潜入調査が無駄に終わって欲しい。
その様子を一目連に報告すると、一応様子見て、必要無いと思ったら輪入道は回収しよう、という事になった。
一目連が放送部の部室を覗く。私は耳を澄ませて様子を伺った。一目連が「え、」と声をこぼす。
昨日、私と話をしていた後輩の女の子の声が聞こえる。
「昨日、杏子先輩に言った事ですかぁ?そんなの嘘に決まってるじゃないですかぁ。
多分、涼宮先輩はその事を聞いたら部室に来る。そこで本当の事を教えてあげようと思ったんですよ。
あなたなんて甲斐田先輩の足元にも及ばない。しかも、私の邪魔なの。だから放送部やめてくださいよ。ね?」
涼宮さんの声は一切聞こえなかった。部室の扉が閉まる音がする。
「ねェ、奈津。ひどくない?敢えて1回喜ばせなくてもさぁ…」
そう言う女の子からクスクスと笑い声が響いている。
「えー、だってぇ1人でも邪魔者は少ない方がいいでしょ?1回持ち上げてから落とす方がダメージ大きいじゃん。
あのまま放っておいたら、時間経ってからのこのこ戻ってきそうだしさァ。あのメンタルだし、これくらいしたら絶対やめるよ。アイツ。」
希望がある気がしていたのに…、結果私のせいで涼宮さんは傷ついてしまった。
「行こう」と一目連に腕を引かれて、放送部の部室に向かう。涼宮さんは「全部アイツが悪いのよ…!!!」と震えながら赤い糸を引いた。客観的に見れば恨む相手が違うかもしれない。でも、これは依頼者が決めたことだ。
「(私たちって、結局何も出来ないんだね…)」
お嬢が現れて、甲斐田さんを地獄に落とす。その美しい声を奪われ、周囲に悪口を言われる彼女。向けられた言葉は涼宮さんと同じようなものだった。
「どこに行くの…?」
「地獄よ。」
「地獄…?どうして…、何で私が…??」
お嬢が淡々と「お願いされたから。」と応える。「嘘、嘘!!!」という声と、甲斐田さんの悲鳴が響いた。


「帰るよ」と変わらない表情で言えるお嬢は強いね。ずっと、こんな事を続けて来たんだ。
夕暮れの里、ススキが揺れる中で立ち止まる。俯いて呟いた。
「…私、…余計なことした。私が傷つけた。」
骨女は「だから、深く関わっちゃいけないんだよ。」と、私よりもずっと辛そうな顔をしていた。
輪入道は顔をしかめて、何も言わなかった。
「遅かれ早かれ、ああなっていたよ。きっと。夕葉のせいじゃない。」
優しい言葉をかけてくれる一目連も、上手く笑いきれずに辛そうな顔をしていた。
誰かが不幸になる引き金の付いたピストルを、私が彼女に手渡した。私が皆をこんな顔をさせている。
そのことが辛くて、しばらくの間上手く言葉が出てこなかった。







前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ