黒猫が泣く

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彩奈ちゃんが叔父さんの家に上がって、「お世話になります」と言う姿を猫として見ていた。
叔父さんが歪んだ笑顔を見せて「待ってたよ」と言う。叔父さんが彩奈ちゃんを抱きしめると、彩奈ちゃんは肩を震わせ拒む。その行動に叔父は本性を現した。
「お前が好きなんだよ、叔父さんは…。昔からか弱くて、俺が守ってやりたかった。ああ、どんどん綺麗になっていく彩奈を誰にも渡したくないんだ。」
歪んだ愛情を不適な笑みに浮かばせて。
「嫌ッ!!!」
拒否をすれば、あなたも父親と同じ。「彩奈…、俺に逆らうのか…!!!」と叫び、怯えながら距離を取る彩奈ちゃんににじり寄る。その手の中にギラリと光る刃物にハッとした。
「お前が可愛くて、俺の側に置きたかったから、放火までしたんだ。まずお前を1人にするために、お母さんにも借金をさせて追い込んで…、死んだ方が楽になる、彩奈のことは任せろと言ったのに。あの女なかなか死ななかったよ…。」
何も考えずに猫から人間へ姿を変え、刃物を持つ男に体当たりをする。
「だから俺がこの手で、殺したんだ…。遺書まで書いてなァ、」
「酷い、全部…叔父さんだったの…?」
後ろから輪入道が「オイッ、俺たちは…!!!」という声が聞こえる。全てがスローモーションになるっていうのは、こういう時のことなんだね。男と彩奈ちゃんの間には一目連。体当たりと同時に刺さる刃物。男と一緒に私も倒れる。
一目連が苦笑して「刃物の俺が、刺されるなんてな…」と言って血を流す。
「…ッ、嘘…!!!一目連?!」
駆け寄っても返事が無くて、側に居るのに手が震える。
「やだ、居なくなっちゃやだ…!!!!!」
一目連は、寝たまま私を見上げて片目を細めると同時にサラリと私の髪を撫でる。何も言わずに微笑んでから、その目を瞑った。


「……あれ、何だったの。」
最期、じゃなかったけど、微笑んで目の前の私の髪を梳いた、なんて…、キザすぎ。流石ナルシストだ。
「でも良かったよ、一目連が居なくなったら夕葉はどこか行っちゃいそうだし。
そうすりゃ、輪入道と2人じゃないか。」
ため息交じりに言う骨女に「何が不満なんでィ」と冗談交じりに言う輪入道。
「何で私が一目連消えたら消えるの?? 2人が居れば十分だよ。」
「そう傷つくような事言うなよ。」
「まあまあ、本気で心配したから案外あっさり戻ってきて、どうしたらいいのか分かんないのさ。」
骨女の情報によると、叔父さんも借金取りも逮捕されたらしい。彼女の恨みは法が解決してくれるように、と願った。

「一目連、怪我は大丈夫なのかィ?」
「ああ、」
「心配したんだからね。…まァ、夕葉程じゃないけど。」
「泣き叫んでたもんなァ。居なくならないで!って。」
骨女と輪入道が揃ってからかう。
「2人とも変な事言うのやめて。気持ち悪い。」
ああ、あの事実を否定して消し去りたいくらいに恥ずかしい。平然と戻ってきちゃって。
「夕葉って思ってた以上に俺のこと好きだったんだな。」
「ふざけんな、ナルシスト。嫌いだよ、ばか。」と言いながら、ニコニコと頭に乗せて来た腕を払う。
「なッ」と一目連が驚くと、お嬢まで「照れ隠し…」と呟いた。「違うよ」と否定しても一目連はほわんとした顔で「そっか、照れ隠しか」なんて言い出して、それが余計に腹立たしい。

彩奈ちゃんが「私を助けてくれた人達、行方不明になっちゃった。お礼言いたいのに。」と呟く横に、支える友達の姿がある。
「家族は亡くしたけど、友達がいるから。あの子はきっと大丈夫だね。」

私の言葉に同意するように、骨女が「仲間っていいものだよ。独りで悩んでるとさ、ここんところがチクチク痛んでしょうがない」と胸元に手を当てた。
そんな骨女を見て、一目連は「悪いが、俺はお前らを仲間なんて思ってないぜ。」と笑う。

「仲間じゃなきゃ、何なのさ!!!」

「………”家族”、かな。」
背を向ける一目連に、骨女は「今何て言ったんだい?」と問うが、答えは無く。

一目連が小さく呟いた言葉。輪入道と骨女には聞こえなかったみたいだけど、私には届いたよ。
仲間じゃない、それよりも、もっと近い。
家族―、その響きに、黒猫はもう独りじゃないと感じた。

後ろで「輪入道は何だと思ってるんだい?」「俺は恋人かなァ、」なんて声を聞きながら。
私は一目連の背中を追いかける。その背中に抱き付いて。
「……やっぱり、好き。」
と、私が呟けば、「猫は気まぐれなんだから、」と呆れたように頭を撫でる。
「まあ、知ってたけどな。夕葉が俺のこと好きなのは。」
「何でそれ言っちゃうのかなー…。」
いつも一言多いというか、何というか…。
「今回の仕事、結構疲れたし。帰って昼寝でもしよう。」
「賛成!!!」

「……こうしてると、昔よりは痛くないかもな。」
一目連がそっと、胸に手を当てる。
私は何も言わずに、ただ、この優しい人が少しでも傷つきませんように、と願った。

地獄でも幸せなんて有り得ないけど、それでも今は。昔よりずっとずっと幸せだ。
欲張っても良いのなら、みんなとずっと一緒に居たいです、なんて。誰にお願いすればいいんだろうね。










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