黒猫が泣く

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「もう、あの子だけの問題じゃなくなってる。」
お嬢がそう呟いて、あの予感が現実になったと胸を占める。

あの事件以来、拓真くんは両親を殺した、または殺そうとした恐ろしい悪魔の子だと噂され、肩身の狭い思いをしている。
拓真くんの事を庇った女の子は地獄に流された。拓真くんはそれから、自分に関わった人間が不幸になる気がしてる。

それから、私が猫の姿で潜入しているのはある男のところだ。ラブリーヒルズの歌を集まって歌うコーラス団体の1人。
「(こんな街でも、まだ愛している人が居るんだな…)」なんてどうでも良いことを考える。
その中で周囲と音が合わない男性がいる。他の男が「下手なんだから口パクしてろ」と呟いた。
周りからすれば、それだけの悪口。けれど、今この街はどうかしてる。誰かが消えれば、”悪魔の子”のせいにすれば良いのだと、簡単に地獄流しをする輩が増える風潮がここから始まった。おかげで私たちは大忙しになった。

「十分な調査なんて出来やしないよ。」
「藁人形になりすぎて俺は全身バキバキだ。」
「俺も、さすがにこれは疲れたかな。」
3人が揃って首を回したり、肩に手を当てて首を左右に動かしたり。相当身体にキてるらしい。
「私は猫だと便利だからって働かされすぎて睡眠不足。」
最近もっぱら名ばかりの調査は私に任されて、3人は藁人形になったり戻ったりを繰り返している。
あれだよ、最近はやりのブラック企業ってやつだ。私達は4人で交代出来るし、分担できるけどお嬢はそうもいかない。
地獄はやっぱり人使いが荒いよ。お嬢こそ「ブラックだー。」って訴えた方がいい。
「(…って、こんなバカなこと考えてなきゃ、やってらんないよ。)」
簡単に地獄へ流す、この風潮何とかならないもんかねェ…と呟く骨女。
「まァ、いいんじゃない。こうやって一気に流してくれりゃ、お嬢が解放されるのも早くなる。」
一目連の言葉に、お嬢を大切に思っている皆は「そうなのかい?」と救いを見つけたように見えた。
嫌になるくらい連続して行われる地獄流し。何か見返りでも無ければ、苦しくて仕方ないのだ。
「(あーあ、何連勤したんだろう…。)」

こうして、私たちが忙しくしている間に。拓真くんの家に行ったことをきっかけに、ある刑事が地獄少女について調べ始める。その刑事の妹も行方不明のままだった。
誰も地獄に流した訳ではないのに、どこに行ったのか分からない。突然消えた女の子。
そんな事実さえ知らないまま、時は進んでいく。その間にも多くの地獄流しが行われていた。

「はァ、疲れた…。ちょっとだけ寝かせて。」
妖怪のくせに睡眠が必要なんて、猫の生態はこんな時邪魔だ。寝不足でふらふらした私をいたわって、一目連が少し帰って寝てくるように勧めた。
みんなが大変なのに、と一時は拒んだが身体の方が限界みたいだ。
「俺たちは大丈夫だ。ちょっと歳とってるから身体はバキバキだが、痛みは我慢できる。」
「そうだよ、アタシはアンタのお姉さんだろ?任せな。」
「ほら。猫は気ままに寝てろってさ。」
いつも通り一目連が私の頭をぽんぽん、と撫でる。
「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます。」
家族に頭を下げて、一度夕暮れの里に戻る。今の真ん中に丸まって、しばらくの間眠っていたら大きな音がして目が覚めた。
「誰だ!!!安眠妨害罪で訴えるぞ!!!」
私が声を上げると同時に、目の前に転がって来た女の子も「ちょっとあなた、いきなり突き飛ばすなんて…!」と声を荒げる。誰…?と私が首を傾げると、その女の子の目の前にお嬢が居る。
皆が気遣ってくれたわりに、あまり寝れなかったなァと思いながら起き上がり乱れた髪を整え。
「帰ろうか、」とその女の子に言う。その子が、あの刑事の妹の蛍ちゃんだったらしい。
その子はきくりに突然ここに連れてこられ、夕暮れの里を彷徨った後、名前の書かれた蝋燭を見た。そこに拓真くんの名前が無い、と証言するつもりだそうだ。つまり、拓真くんは誰も地獄に流していない、と。あの子は悪くない。

そんな時、真実に辿り着く手前の刑事を疎む人たちが居た。”悪魔の子”のせいにて、人を地獄に流した後も平気な顔をして暮らしている街の人たちだ。刑事さんはとある倉庫に閉じ込められていた。
蛍ちゃんは拓真くんを自宅へ招く。拓真くんが自分を守ろうとする姿を疑問に思い口に出すと、「だって悪いのは閻魔あいだもの。」と返した。
地獄通信なんてものがあるから皆おかしくなったの、とその存在を憎む。
「信じることにしたの…?」
「見て来たからね。」
現実、人間の心から目をそむけたくなる程に、この街はおかしな事ばかり起こっている。
拓真くんが、蛍の兄である刑事さんはどこかに連れて行かれた事を伝える。マンションの一室を叩く音。
2人は一緒に窓から逃げ出した。

狂気に満ちたこの街で、私たち地獄に住む妖怪なんかより、人間の方がよっぽど悪魔に見えた。
ああ、そんな事ずっと前から分かっていたけれど。
拓真くんと蛍ちゃんを縛り、穴の開いた小舟に乗せて沖へ流す。邪魔者を消す大人たち。
助けにきた兄の刑事。これで終わったように思えたが、今度は刑事が地獄に流された。
お嬢も苦しみながら責務を果たしている。だから、私たちが何かを言ってはいけない。
歯を食いしばって、現世にある地獄を見つめている。

蛍ちゃんは持っていたパソコンを開いた、もうこうするしかない。この恨みの連鎖を止めなければ。
その思いから地獄通信に書き込んだ名前は”紅林拓真”だった。
「ごめんね、でも、もう…どうしようも無いの。止めるためには、もうこうするしか…。私もすぐに追いかけるから…。」








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