黒猫が泣く

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「一目連が名前を書き込まれた?」
学校の敷地内で、地獄通信に関わる情報交換をする。誰かの目につかないよう細心の注意を払っているのは、
私が唯一生徒として潜入しているからだ。このメンバーで居るなんて知れたら怪しまれるに違いない。
それどころか、恨まれそうだ。なんて考えていたこの頃。”石元蓮”の名前が地獄通信に書き込まれたらしい。
書き込んだのは、この学校に居るある女子生徒である。

私たちは現在、田舎にある中学校に全員で潜入している。一目連は石元蓮という名の理科教師。
骨女は曽根アンナという名の体育教師、輪入道は業務をこなす校務員。私は生徒として。
中学生たちに若い石元先生と曽根先生は人気がある。異性には勿論、同性にもだ。
だからこそ、少しでも先生と仲が良いと知られたら恨まれそうな予感がしている。
まあ、恨まれて何か都合が悪いのかと言われれば、いじめなんてものには悲しいことに慣れているし。
困ることと言えば、”友達”に話を聞いて情報収集することが困難になる、といった事くらいだろうか。

お嬢が消えてしまっても、この世から怨みは消えない。私たちはあの日、何かに引き寄せられて集まった。
ここでまた、あの時のような悲劇の連鎖が起こらないよう祈りながらの仕事を続けている。

ところで、話を戻すと。一目連の名前を地獄通信に書き込んだのは、芹沢夕菜という3年D組の女子生徒だ。
山童は、お嬢がエラーで返したことを伝えて一目連をフォローする。それを無駄にするかのように、きくりが「やーい、怨まれたー」と指をさして笑う。
「アンタ一体その子に何したんだい?」
怨みをかったらしい、一目連に骨女が問う。私はすぐに答えない一目連に苛立ちながら言い放った。
「私以外の生徒にやったらセクハラになる、って言ったでしょ?年毎の乙女は複雑なんだからね。」
調査しにくくなるのは面倒だから、おかしな行動は控えて欲しい。
呆れてため息が出た私に対し、一目連は何故か大きな木に手をつい「何も」と言う。何もした覚えは無いらしい。
「敢えて言うなら、この美貌が悪いのかな?」
その瞬間に私達が居る方を振り返り、フッと笑みを見せると大袈裟な身振り手振りと共に「芹沢って子に記憶は無いけどー、どうせ俺の隠れファンだろー。」なんて嬉しそうに言い始める。
思わず「は?」という言葉がこぼれて、隣に居た山童が「夕葉さん、今時の女子中学生らしくなりましたね。」と褒めて(?)くれた。
その思いは恐らく全員同じ。きくりはムッとしているし、骨女からも「はぁ?」という言葉がこぼれる。
それでも一目連のナルシストな妄想は止まらず「叶わぬ恋が怨みに変わったか。俺って罪作りなヤツ」なんて言いながらメガネをあげる仕草。
「(あれ、かっこいいとでも思ってるのかな…?)」
立ち去る一目連を指さし、骨女が呆れながら「何か喜んで無かった?」と言う。輪入道は煙管をふかし「おめでてェ野郎だ」と。
きくりはよほど面白く無かったのか、「いっぺん流すか」なんて言っていた。
「確かに、1回思い知った方がいいかもね。」
私も呆れてコメントすれば、山童が「まあまあ」と宥める。何ていい子なんだろう。

「…にしても、私には、その芹沢さん、って子。むしろ骨女の方が好きに見えたんだけどなァ。」
この時、骨女はそうかねェ、なんて適当なことを言って、信じていない様子だった。
「生徒の目から見たら、曽根先生ファンの方が多いと思うよ?他にも諸星さんとか。」
一目連って、いつも女子高生に人気だけど今回は少し違う気がする。
「あの子は熱狂的な感じだけど、他にも同じクラスの高杉さんみたいに隠れファンって言えば沢山いると思うなー。
曽根先生って美人だし、クールでカッコいい大人の女性って。あの年代の女の子なら憧れるんだよ。」
私がそう言えば、骨女は少し納得した様子。山童に重ねて「気持ちが分かるなんて、益々今時の女子中学生ですね。」と褒められる。
そこまで重ねて言われると、少し幼いなーって馬鹿にされているようで引っかかるんだけど。これでも私、何百年って生きてるし。
とはいえ、潜入するには好都合だ。それに山童も悪気があるわけでは無いだろうし反論しないでおこう。
「その芹沢さんって子が、アタシに憧れているとして、何で一目連が怨まれるんだい?」
「…………確かに。」


後日、体育の後で着替えていると諸星さんが”アンナちゃん”について語っていた。その日の体育でミスをした芹沢さんは、諸星さんに「私のアンナちゃんに二度と迷惑かけないで。今度やったらシメるから。」なんて言われている。
「(芹沢さん、確かに大人しそうな子ではあるけど。あれって本当にミスだったのかな…?)」
気を惹くためだったりして。なんて思いながら、一目連の様子を見に行こうと理科室に向かう。
実験道具が並び、おかしな色の液体を楽しそうに混ぜる石元先生に曽根先生が「このまま放っておいていいのかィ?」と問いかけたところだった。
「俺にどうしろって言うんだ。怨みを晴らすために付き合えって言うの?」
「もし付き合ったら犯罪だからね。昔と違って。」
と言いながら入れば、「夕葉」と2人の声が重なる。「お前、授業は?」と言われて、体育で疲れたからこれから保健室で寝る予定だと告げる。2人は呆れながらも、話をつづけた。
「付き合えとは言わないけど、せめて優しい言葉の1つでもかけてやりなよ。」
骨女の提案に、即答で「やだ」と言う一目連。その理由は、女は優しくするとつけあがるから、だそうだ。
「言葉の次は電話、電話の次はデート。変な期待をされるのは御免だね。」
「大した言いぐさじゃないか。」
「…随分女の人の扱いになれてますね、石元先生。」
俯いたまま呟けば、「いや、これは、経験談じゃなくて。聞いた話、っていうか。」と急に慌てだす。
適当に聞き流すように「へー、ふーん」と相槌を打って、「私には関係無いのでいいですけど。」とそっぽを向いてみる。
骨女は笑いをこらえきれてないし、一目連は悩まし気だ。居心地が悪くなって、早く寝てしまおうと思った。
理科室を出る時に、「石元先生こそ、期待を裏切られないようにね!女を甘く見ると痛い目見るんだから。」と言い放ってきた。
保健室に入ると、頭がくらくらしまーす、なんて適当な言い訳をして眠りについた。









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